1.失った愛

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ラルの綺麗な顔を見つめながら、彼女が婚約者候補として王太子様に会ったら絶対に彼女が選ばれるだろうなって思った。 母親似の美しい赤茶の瞳に波打つ黒髪は艶々と光り輝いていて、ビスクドールの様に整いすぎた顔と白い肌は人の視線を一瞬で奪うだろう。 行けば彼女は確実に次期王妃様になれると思う。 それなのに彼女は頑なに行きたくないと言って怒りを顕にしている。 「……僕に話してもどうにもならないよ……」 僕はお父様からもお母様からも見向きもされない欠陥品(・・・)だから。 昔は僕もラルと同じ様に、周りから美しいと沢山褒められて生活をしていた。父親似の緑の瞳が自慢だった。 僕たちが生まれた時、僕とラルの瞳を見た父がそれぞれの瞳の色から宝石の名前を与え自分の宝物だと周りの貴族に言いふらし溺愛するほどに僕とラルの美貌は非の打ち所が無く、僅か5歳の頃から婚約の打診が後を絶たないくらいだった。 そうやって蝶よ花よと愛されて育った僕の人生はある時を境に逆転した。 8歳の誕生日。 僕とラルの誕生日パーティーが公爵家で盛大に行われた。歳の近い貴族の子供達が集まって沢山の贈り物を貰い、口々にお祝いの言葉をくれる。 だけど、甘やかされて育った僕は高飛車で我儘で、気に入らないプレゼントがある度に要らないと突っぱねて、センスが無い!と悪口を言って相手を泣かせたりしていた。 それは多分そんな僕に我慢できなくなった子供の癇癪による事故(・・)だったのだと思う。 順番が来て、誕生日プレゼントに手作りのクッキーをくれた子爵家の男の子からそれを受け取った僕はあろうことかそのクッキーを地面に落とすと足で踏みつけた。 踏みつけた後、こんな粗末な物を自分に食べさせるのか!毒入りじゃないのか!とか貧乏子爵家の男はこんな物しか渡せないのか、とか散々馬鹿にするようなことを言ったと思う。 それに怒ったその子が近くにあった熱湯の入ったポットを僕に向かって投げつけてきた。 そのお湯が僕の顔半分に思い切りかかり、有り得ないほどの激痛に叫び声を上げてその場に蹲ったことを鮮明に覚えている。 昔のことを思い出して、もう一度包帯の巻かれた顔半分に触れた。 「……ラル……我儘はあまり言わない方がいいよ」 「ふん!なによ!!双子の兄だからって私と貴方は対等なんかじゃないんだからね!!!その気持ち悪い顔で私に指図してこないで!きっと、貴方みたいな見た目なら王太子ともお似合いだったでしょうね!!!」 諭してみてもラルは聞く耳を持ってはくれない。それ所か、突然何かを企んだような顔をして、それだわっ!って大きな声を出して笑いだした。
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