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叩かれると思って身構えたけれど、何故かアニーシャ様の手は僕に触れる寸前でふわりと僕を避けて空を切る。
「な、なによこれっ!?」
「……これって、風?」
僕を囲うように風が吹いていて、その風がアニーシャ様から僕を守るように波打っていた。
直ぐにダリウスさんの魔法だと気がつく。
ここまで強い魔法を目にするのはフェリクス様の回復魔法以来で驚いてしまう。
ダリウスさんは僕を自分の方に引き寄せるとアニーシャ様をじっと見つめながら冷たい声で、お引取りを、と彼女に向かって言った。
「貴方、たかが護衛騎士の分際で何様のつもりなの!!」
「確かに私はただの護衛騎士ですが、フェリクス様直々にこの方をお守りするように仰せつかって居ますので」
「なっ!ふ、ふんっ!!お父様に言いつけてお前の家なんて取り壊しにしてもらうんだから!!」
「生憎、私には取り壊せる程の家はありませんので告げ口しても意味は無いかと」
「……っ!!」
ダリウスさんの言葉を受けて、顔を真っ赤にさせたアニーシャ様はそのまま僕達に背を向けて立ち去ってしまった。
そのことにほっと安堵の息を吐き出す。
「あの、ありがとうございました」
「貴方をお守りできたのなら本望です」
「……あの、ダリウスさんは僕のことを知っているんですよね?」
「ええ、よく知っているつもりです」
よくとはどういうことなんだろう。
「ダリウスさんと僕は何処で知り合ったんですか?」
「……ずっと昔に、とあるパーティ会場で出会いました」
「……パーティ会場?」
一瞬、黒髪の幼い少年の顔が頭の中を過ぎって消えた。
けれど、その少年のはずがないって無意識に否定すると眉を垂れさせて、覚えてないですごめんなさいって返事を返した。
「覚えていなくてもいいです」
「……どうして?」
「貴方が幸せで居てくれるならそれだけで充分だからです」
「……ごめんなさい……僕、よく分からなくて。貴方にとって僕はそこまで言って貰えるほどの存在とは思えないんです」
だって、僕は彼のこと覚えていない。
それくらい微かな接点しかなかった関係のはずなのに、ダリウスさんが僕にここまで良くしてくれる理由が分からないんだ。
「貴方は私の宝石だったから」
「……宝石?」
「どんなに暗い夜でも、明るく照らしてくれる一欠片の宝石が私にとって貴方でした。だから、貴方が幸せになることが私の願いです」
ダリウスさんの言葉は分かるようで何も分からない。
僕達は一体何処で出会ったんだろう?
彼は誰なのだろう。
その青い瞳に僕を写して、彼が微かに微笑みを浮かべた。その微笑みが、あの日の少年と重なった気がしたんだ。
あの日……あの誕生日パーティの日。
僕にクッキーをくれたあの子の微笑みと同じ気がした。
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