5..何も無い

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その後、すぐにフェリクス様が戻ってきてくれて、ダリウスさんが先程あったことを説明し始めた。 僕は伝えなくていいと行ったのだけれど、ダリウスさんは仕事だからと言ってそれを了承してはくれなかったんだ。 ダリウスさんの話を聞き終えたフェリクス様は顔いっぱいに心配の色を宿しながら僕の手を取った。 「怪我は無いのかい?痛いところは??私が離れたいせいで怖い思いをさせてしまって本当にごめんっ……」 取り乱すフェリクス様に大丈夫だと何度も言葉にして伝えるけれど、フェリクス様の顔色は優れない。 「……やはり駄目だな……」 フェリクス様がふと落とした呟きを聞いて、彼が今にも泣きそうだと思った。だから、もう一度大丈夫だと伝えてみる。 けれど、彼の顔はやっぱり曇ったまま晴れることはなかった。 「今日はもう帰ろうか。送るよ」 「……ありがとうございます」 ちらりとダリウスさんの方を見れば小さくお辞儀をしてくれた。 それに僕もお辞儀を返してからフェリクス様と共に並んで馬車まで向かう。 まだ来たばかりなのに申し訳ないなと思うけれど、フェリクス様の様子が変なことも気になっていて、大人しくフェリクス様の隣を歩く。 馬車に乗り込んで、椅子に腰かけるとフェリクス様は僕の正面に腰掛けてから、お疲れ様って微笑んでくれた。 それに僕もお疲れ様ですと返す。 今日は楽しい日になるはずだったのに、フェリクス様を心配させてしまって、それに目の前の彼が凄く悲しそうな顔をしていることに僕も悲しくなった。 「あの……ごめんなさい」 「っ、どうしてルダが謝るの?」 「……だって、フェリクス様が凄く悲しそうな顔をしているから……」 「……そんなこと、ないよ」 そう言って笑うフェリクス様の顔には少しだけぎこちなさが垣間見えていて僕はそれを見て益々辛くなる。 折角フェリクス様のパートナーに選んでもらったのに彼を悲しませてしまった。 その事に物凄く後悔を覚えて何も言えなくなる。 その後はお互い無言になって馬車のガラガラっていう地面を踏む音だけが鼓膜を揺らしていた。
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