5..何も無い

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〜コーラル視点〜 オスマン様は私の言葉を聞くと、話を聞いてやると言って足を組んだ。 偉そうな態度は鼻につくけれど、この機会を逃せばもうエスメラルダはフェリクス様に会うことすら出来なくなるかもしれないと分かっているから、文句を言いたいのを我慢して、噛み砕いて状況を説明していく。 「私の双子の兄が今お父様に部屋へ閉じ込められているの。公爵家で行われたパーティーに招待されて、お父様に黙って参加したのが原因よ……」 「込み入った事情がありそうだが、それで俺にどうして欲しいんだ」 「……フェリクス様に取次を……」 「もしかしてその双子の兄というのはエスメラルダという名では?」 「そうよ」 「なるほどな。それなら手助けしてやろう。兄上が悲しむ姿は見たくは無いからな」 オスマン様の言葉にぱっと顔を上げるとニヤリと笑みを向けられて、その顔を見て何故か安心感を覚えてしまった。 メイドからエスメラルダが閉じ込められたと聞いた時には直ぐに会場を飛び出してお父様を殴りつけてやりたい気分になった。 お父様は美しい物を集めることが好きで、お父様の集めたコレクションが飾られた部屋は目が痛いほどにキラキラと輝いている。 幼い頃はその綺麗さに目を奪われ、素敵だと思っていたし、自分達もお父様の宝物だと言われて誇らしい気持ちだった。 けれど、エスメラルダの件があってから私はその考えを変えた。 お父様は傷のない(・・・・)宝石が好き。だから1度傷のついてしまったエスメラルダは愛されることはもうない。 私達はお父様のコレクションの1つなんだ。 そう気がついたから私はあのコレクションの山を美しいとは思えなくなった。 それなのに馬鹿なエスメラルダはまだお父様の愛を欲している。 私が傍にいて寄り添うことができていたならもっと違ったのかもしれない。けれど、私にはエスメラルダの傍にいる資格なんてないから、もっともっと彼に嫌われたいと思っているし、影からエスメラルダを支えられればそれでいいと思っている。 「行くぞ」 「きゃっ!」 強引に手を引かれて、そのまま誰にも言わずに会場を後にした。 王家の馬車に乗せられて、オスマン様と共にフェリクス様の元へと向かう。 その道中、浮かぶのやっぱりエスメラルダの悲しげな顔だけだった。
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