6.隠し事の共有

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街の視察へ行く日はあっという間に来てしまった。 当日が来るまでは、まだかなって何度も何度も残りの日にちを数えては時間が過ぎるのが遅く感じていたのにいざ当日になるとドキドキしてしまう。 「ルダ、準備はいいかい?」 部屋まで僕を呼びに来てくれたフェリクス様に、笑顔で返事を返す。 街の視察ということで着替えを手伝ってくれたメイドの女の子が動きやすい服を用意してくれた。襟元に小ぶりなフリルのあしらわれたブラウスと黒のジョッパーズパンツにロングブーツを合わせた服装は動きやすいし、馬に乗って視察に行くため乗馬にも適している。 「今日の服装も良く似合っているね」 「ありがとうございます……嬉しいです」 はにかみながらお礼を伝えたら、フェリクス様が行こうって手を引いてくれた。 連れられるまま入口まで向かうと、2匹の馬を連れたダリウスさんが僕達のことを待っていた。 「今日はダリウスも同行するんだ」 「……そう、なんですね」 2人きりだと思っていたから少しだけ残念だなって思ってしまった。 「途中私1人で寄りたい所があるんだ。だから、その時にルダが1人にならないようにダリウスに着いてきてもらうことにしたんだ」 「お気遣いありがとうございます」 今日はあくまで街の視察なんだってフェリクス様の言葉で思い出すことが出来た。2人きりでは無いのは少し悲しいけれど、街のことを沢山知る貴重な機会なんだから気を引き締めないとって自分を叱咤する。 「ルダは私と一緒に行こうね」 「……はい」 そう言って僕のことを馬に乗せてくれたフェリクス様が僕を後ろから抱きしめる形で自分も馬に乗った。 ダリウスさんももう一匹の馬で僕達の後ろをついてくる。 最初は初めての乗馬に恐怖心があったけれど、フェリクス様が支えてくれるから段々と恐怖は薄れていって頬を撫でる風が心地いいと思えるようになってきた。 「わあ!景色が飛んでるみたいっ」 馬が走るのに合わせて景色が流れていく。 横を次々と過ぎ去っていく景色の色が目新しくて自然と頬が緩んでいた。 「もうすぐ街に着くよ」 「あっという間ですね!」 見たことの無い景色や触れたことの無い感覚にワクワクしてしまって声が大きくなる僕の後ろでフェリクス様が微かに笑を零した気がした。 その声を耳に入れるともっともっと楽しくなる。 街には何があるんだろう!って気になって仕方ない。 僕はこの時完全に浮かれていたんだと思う。
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