6.隠し事の共有

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ダリウスさんは僕の絞り出した言葉にただ口元に浅く笑みを浮かべるだけで何も言ってはくれなかった。 「ねえ!今日来てるって!!」 「えっ、俺も母ちゃんの病気を診てもらうんだ!!」 なにか話さないとって口を開きかけた時、ボロボロの服を着た子供達がそんな会話をしながら走って行くのが視界に入ってきて首を傾げた。 「……何が来てるんでしょうね」 丁度いいと思いその話を振ると、ダリウスさんが見に行きますか?って言ってくれたから僕は素直にそれに頷いた。 そうしたらダリウスさんが僕に手を差し出してきた。 その手を見つめながら首を傾げると、今から行く場所は危ない所だからと説明されて、それなら仕方ないかっておずおず彼の手を取る。 手を引かれた状態で彼の後ろをついて行くと、段々と街中とは雰囲気の違う奥まった場所に向かっていくのが分かって少しだけ緊張してきた。 なんだか怖くなってきて、ダリウスさんと繋いでいる手に力を込めると大丈夫だって僕に伝えるみたいに手が握り返されてそれに少しだけ安堵感を覚えた。 奥へ奥へと進んでいく内に少しずつ嫌な匂いが鼻につくようになってきた。ゴミや排泄物の混ざりあった様な臭いに加え、ボロボロの小屋やゴミで造られたテントの様な物が建てられている場所が多くなってくる。 それと同時に痩せこけていたりボロボロの服を着た人達が道端に座り込んで居るのを見かけるようにもなってきた。 「この場所って……」 「ここはスラム街です。王国の影の部分。私も昔はここに住んでいたことがあります」 ダリウスさんはそう言いながらもっと奥へと進んでいく。 スラム街なんて勿論初めて来た。 僕が部屋に閉じ込められていた時よりももっと酷い環境に晒されている人達を見て、自分はまだ恵まれていた方なのだと思った。 「あれを見てください」 ダリウスさんが足を止めて指さした先を見ると、見覚えのあるフードを目深に被った男の人が、座り込んでいる女性に話しかけている姿が確認できて息を飲む。 「……フェリクス様?」 顔は見えないけれどあの人がフェリクス様だということははっきりと分かる。分かってしまうと、なぜこんな所に居るのかと疑問が浮かんできた。 女性が腕をフェリクス様に差し出すと、フェリクス様が腕に触れてそこが淡い光で包まれる。 あの光が回復魔法を使用している時の物だと気がついて驚く。 怪我を手当してもらった女性はフェリクス様に向かって手を合わせて拝むように目を閉じた。 それに対してフェリクス様はただ微笑みを返すだけで、報酬を貰うこともしなければ必要以上に声をかけることもしない。 治してもらおうとフェリクス様に近寄ってきた身体を清めることすら出来ていない子供のことを、戸惑うことなく抱き抱えて回復魔法を使ってあげているフェリクス様の姿を目に焼き付けながら、彼は本当に心の優しい清らかな人なのだと知った。 それと同時に尊敬の念が心を覆い尽くす。 僕が彼と同じことをしろと言われても出来るだろうか? きっと僕がフェリクス様の立場なら出来ないと思う。
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