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フェリクス様の回復魔法の光が暗い室内を照らし、少年のお母さんのことを癒していく。
「……っ」
癒しの光が収まると、少し呼吸が緩やかに変わったお母さんの様子を確認してから眉を寄せた。そのフェリクス様の様子にいち早く気がついた少年が、どうしたんだよって尋ねる。
「……お母さんの病気は治ったから、もう病気で苦しむことはないはずだよ」
その言葉に違和感を覚えた。
「……じゃあ、母ちゃんは助かるんだよな??そうだよな?もう大丈夫なんだろ???」
心配げにお母さんとフェリクス様に視線を送る彼にフェリクス様は何も答えない。
いや……答えられないんだと気がついた。
「……フェリクス様……もしかしてお母さんは助からないんですか?」
だから、僕が聞くことにしたんだ。
残酷な事実だとしても、今ちゃんと少年に伝えておかないといけないって思ったから。
「……なに、……言ってんだよっ!!」
少年の赤い双眸が僕のことを睨みつける。
彼の身体から微かに黒いもやが発生したと思ったらそのもやが僕の方に弾丸のようになって飛んできた。
咄嗟に目を閉じて身を守ろうと丸くなると、ふわりと風が吹いて、前みたいにダリウスさんの魔法が僕を守ってくれた。
「……魔法が使えたのか。それも貴重な闇魔法の使い手とは」
フェリクス様が少年を落ち着かせるように彼の手を取った。
「落ち着いて。お母さんが起きてしまう」
「っ!……母ちゃん……」
その言葉を聞いた少年が悲しげに瞳を潤ませてお母さんへと視線が映る。
ダリウスさんは警戒体勢をとかないまま、2人の様子を見ていて、僕は自分の迂闊さに腹を立てていた。
「……ごめんなさい……」
少年にとって大切な人なのに、簡単にあんなことを言ってしまって後悔する。
「……ん……ああ、お迎えが来たんだね」
その時、目を固く閉ざしていたお母さんが目を開けてフェリクス様のことを見た。
「母ちゃん!!」
少年が声をかけるけれど、お母さんにはフェリクス様のことしか見えていないような感じだ。もしかしたら意識が朦朧としているのかもしれない。
「……ああ……死ぬ前にあの人に会いたかったねえ。……テオにも会わせて、あげたかった……」
「母ちゃんっ、俺ここにいるよ!!なあっ、こっちを見てよっ!!!」
必死にお母さんへと話しかける少年の姿が痛ましくて胸が張り裂けそうになる。
「……会いたいねえ……」
何度も誰かに会いたいと呟く彼女はそれだけが心残りかのように涙を流す。
その姿を見て居ても立っても居られなくなってしまった僕は、フェリクス様の隣に行くと彼女の手を取って集中するために目を閉じた。
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