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彼女の病気はフェリクス様が治したけれど、きっともう体力の限界なんだって思った。
それはお母さんも分かっているんだと思う。
だからこそ、どうしても最後に会いたい人が居るんだってことも……。
僕はお母さんの手を強く固く握りしめながら、僕なら出来るって何度も自分に言い聞かせた。
魔力を彼女へと注ぐイメージ。そして、その魔力を使って彼女の会いたい人を映し出すんだ。
周りに居る皆が、突然彼女の手を握って目を閉じた僕のことを静かに見守ってくれているのを感じる。
繋いだ手からゆるゆると温かな自分の魔力が流れていく感覚を感じて、このまま集中し続けるんだって心の中で言い聞かせ続けた。
「……っ……」
頭がグラグラする感覚が襲ってくる。
まだ幻影の魔法を使うことに慣れていないからかもしれない。
痛みに眉を寄せながら必死に魔力をお母さんへと流し続けていると、突然包み込むような優しい温度を感じて、痛みが和らいだ。
すぐにフェリクス様の魔法だって気がついた。
僕一人じゃ出来なくても、フェリクス様が支えてくれるから出来るって思えたんだ。
蝶の鱗粉が部屋の中を段々と埋めつくしていく。淡く発行する光の粒子たちが少しずつ寄り添うように一点に集まっていくと、そこに1人の男性の姿が現れた。
茶髪に黒目の若い好青年だ。
その人は自分の目の前にいる誰かに向けて愛おしげに微笑みを浮かべていた。
「……あぁ……シュドヴァル様……会いに来てくださったのね……」
お母さんが涙を浮かべながら幻影の彼に向かって笑った。
彼女が会いたかった人はきっとこの人なんだ。
その瞬間、成功したんだって安堵感で胸がいっぱいになった。
「……最後に、お会い出来るだなんて……っ、ほら見てください、貴方の子です。テオ、と言うのですよっ……」
何も答えずただ微笑み続ける彼に、お母さんはひたすら話しかけ続けた。
その声が段々と小さく弱々しくなっていくのを僕達はただ聞くことしか出来ない。
「母ちゃんっ!母ちゃん……なあっ、こっちを見てよっ、!そんなのじゃなくて俺を見てよ!!」
テオと呼ばれた少年がお母さんのもう片方の手を握りしめて話しかけると、彼女は微かに口角を上げてから、立派になるのよ……って呟いて目を閉じた。
その瞬間、幻影がパンっと弾け飛んで無数の蝶が部屋中を舞い始める。金色の蝶は行き場をなくしたかのように宛もなく舞い続けると、突然僕に向かって散り散りに飛んできて、右目の中へと吸い込まれて行く。
蝶が吸い込まれる度に身体から抜け出た魔力が戻ってくる感覚がして、ようやくあの蝶は僕の魔力の結晶だったのだと気がついた。
「母ちゃん……母ちゃんっ!!!」
美しい蝶の舞う中に、テオの悲痛な叫び声がこだましていた。
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