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フェリクス様は僕のことを褒めてくれるけれど、僕が魔法を使えるのはフェリクス様が僕の目を治してくれたからだ。
だから、本当に凄いのはフェリクス様であって僕じゃない。
「フェリクス様が僕の目を治してくれたから、僕は魔法を使えるようになったんです……目の色は変わってしまったけれど、金緑石みたいで好きな色です……。まるで、僕とフェリクス様の色が混ざったみたいだから」
「……ルダと私の?」
フェリクス様の疑問を含んだ返事に、しまった!って思った。
こんなこと言われてもフェリクス様は困ってしまうだけだ。
「見てみたいな」
「……え?」
でも、やっぱりフェリクス様は僕の予想を裏切って優しい顔をしてそう言ってくれた。
「……見せるのは怖いです」
だけど、僕にはその言葉に応える勇気がない。
目を見せるということは、仮面で隠れている火傷を負った皮膚を彼に見せるということだ。
1度は見られたことがあるけれど、あれは不可抗力だったし、出来ることなら見られたくないと思ってしまう。
彼のことを信用していないわけではない。
けれどやっぱり怖いと思うんだ……。
もし嫌われてしまったら……。
「もしもルダが見せてもいいと思った時には見せてくれるかな?」
「……は、い」
僕の気持ちを汲み取ってそう言ってくれたフェリクス様の優しさに感謝した。
「ねえ、ルダ」
「……はい」
「私と婚約してくれないかな」
「……いま、なんて……?」
突然の言葉に戸惑ってフェリクス様の方を見たら、彼の頬に微かに赤みが差していることに気がついて、僕まで顔に熱が集まってきた。
「……私と婚約して欲しい」
僕の目を見てもう一度はっきりとそう言ってくれたフェリクス様は僕の空いている手を取ってそこに唇を落とした。
その仕草全てがかっこよくて見惚れてしまう。
でも……どうして僕なんだろう?とも思った。
「どうして……僕なんですか?」
「ルダと初めて会った時、君はその傷を治さなくてもいいと答えたね。私はこの魔法のおかげで沢山の人と関わる機会があった。けれど、皆大小問わず傷を治して欲しいと寄ってくる。だからこそ、人の弱さを私はよく分かっているつもりだ……。正直傷を治すことに疲れ切っていたんだよ。そんな時、ルダだけははっきりと治さなくてもいいと答えたんだ。その大きな傷を抱えて、どうしてそんなにも強くあれるのか気になった。興味が湧いたんだ。その興味は君と関わるうちにどんどん膨れ上がって、いつの間にか君のことを愛してしまっていた。それに、先程の様な誰かを助ける行動というのは誰にでも出来ることじゃない。私は素直に君のことがすごいと思った。君の強さが眩しく思える。だから、私はルダと婚約したいと思ったんだよ」
丁寧に聞き取りやすい声で教えてくれるフェリクス様の声を僕は一言も聞き逃さないように耳に収めていく。
その言葉を聞いているうちに嬉しくて涙が溢れてきて、その涙をフェリクス様がそっと指で掬ってくれた。
「……っ、僕っ……」
本当は今すぐにでも頷きたい。
彼と婚約したい。
でも、まだ勇気が出ないんだ。
そんな僕の気持ちを汲み取ってくれたフェリクス様が、返事は待つよって言ってくれた。
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