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フェリクス様から婚約を申し込まれてからいつの間にか2週間が過ぎていた。
フェリクス様は最近とても忙しそうにしていて中々話す機会が無い。スラム街で出会ったテオのことでやることがあると言っていた。
屋敷の中にある中庭の通路を進みながら、ガラス張りになっている天井へと視線を向けると、青々とした空が視界いっぱいに広がる。
今日みたいな日は外に出てお昼寝をしたくなるなって、ぼーっと考えてしまう。婚約の返事をどうするのかで頭がいっぱいで最近はあまり寝れていないから余計にそう思ってしまうのかもしれない。
もたもたと通路を進みながら微かに欠伸が漏れそうになった時、目の前から物凄く雰囲気のある美形な男の人が歩いてきて、欠伸を噛み殺した。
長い黒髪にフェリクス様と同じブラウンの瞳は鋭く、まるで獲物を狙う鷹のようだと感じる。
きっと横を通り過ぎていくだろうって思っていたのに、その人は僕の目の前で立ち止まると下から上までしっかりと僕のことを見てから、にこりと微笑みを浮かべた。
「もしかして、エスメラルダ君かな?」
彼の瞳が弧を描きながら僕のことをじっと見つめてくるのに居心地の悪さを感じる。
優しそうな雰囲気を醸し出し、柔らかな声音で話しかけられているのにその裏に何かある気がして素直にその優しさを信じられない。
「あなたは、誰ですか?」
なんだか怖くて1歩後ずさると、彼はその場から動かないまま、上がっていた口角をストンっと落として僕のことを睨みつけてきた。
「お前みたいなのが兄上のお気に入りとはな。あいつに似ているのは顔だけで中身はただの臆病者か」
「……な、なにを言ってるんですか?」
突然態度を変えた彼から言われた冷たい言葉に微かに身体が震えた。けれど、その言葉の意味を上手く理解できない。
兄上?お気に入り?顔が似ている?
よく分からなくて更に恐怖が増してしまう。でも1番怖いのはやっぱり目の前のその人だった。
「俺は第2王子のオスマンだ」
「……第2王子、様?それって……フェリクス様の……」
似ているのは瞳の色だけだ。
でも、本人が第2王子様だと言うのなら、彼はフェリクス様の弟ということになる。
「……お顔を存じ上げず申し訳ありませんでした」
慌てて謝罪をすると、僕との距離を詰めてきた彼が僕の顎を掴んで上を向かせてきた。その拍子に顔に痛みが走ったけれど、彼はそんなこと気にも止めていないようだ。
眉を寄せて彼を見つめると、オスマン様がふんって鼻を鳴らして、嘲るような笑みを僕へと向けた。
「兄上の元で送る平穏な生活はどうだ。楽しいか?」
「……そ、それは……」
彼は笑みを浮かべているのに、その瞳の奥に何故か怒りの色を垣間見てしまって身体を震わせる。
どうして彼は怒っているんだろう。
ふと、フェリクス様から言われた、周りに目を向けてみろという言葉が脳裏を過った。
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