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ネイルサロン
引越しの理由がネイルサロンってちょっと意味わかんないですよね。
いつもネイルは同じサロンに通って綺麗にしてるんです。
もちろんジェルネイルで。
その金曜は仕事が忙しくて、休日も予定が立て続けに入っちゃってて。
大体いつも三週間程度で新しいネイルにしてるんですけど、それ以上サロンに行ってなかったんです。
でも明日の土曜の夜に合コンがあるよーって友達から言われて、めっちゃいい企業の人来るっていうんで、絶対行きたいじゃないですか。
だから合コンに参加するって返事したんですよ。
問題はネイルです。
伸び切ってすごいだらしない感じで、このままじゃ合コンにはいけないなって思ったんです。
でも仕事帰りじゃ時間遅くて。
なので土曜日の早い時間にネイルへ行こうと思いました。
それでいつものネイルサロンの予約状況をホームページで確認したんですけど、やっぱり埋まってて。
電話でも確認したんですけど、ダメでした。
仕方がないんで別のところに行こうと思って、色々検索したんですけど、めちゃくちゃ高い所しかないなーって思ってたんです。
で、自宅の最寄りとか行きやすい駅はダメだったんですけど、一件だけ合コン会場の最寄り駅に、値段は手頃でしかも空いてるサロン Aがあって、速攻予約しました。
合コンが夜の六時からだったんで、サロンは四時からにしました。
合コン当日、服をおろしたてのに着替えて、メイクも程よく決まったんでワクワクしながらサロンAに向かったんです。
でもまあ、昨日検索して翌日空いてるサロンなんて、あんまり期待してなかったんです。
地図アプリで道を辿っていくと、大通りからかなり裏路地に入ったマンションTにある個人サロンでした。
マンションは古ぼけた感じで、めっちゃ昭和な感じでした。
エレベーターで三階に昇って一番奥の三一〇号室って書いてあったんで、その部屋の前にたどり着いたんです。
その時なんか変な感じがして。
何だろう?ってよくよく見てみると、ちょっと暗いんです。
夕方なのもあったと思うんですけど、なんかその部屋は他の部屋より暗い感じで。
でもまあ、建物自体が古いのでそのせいかなと思って気にしないことにしました。
「サロンA」の看板を確認して、呼び鈴を押すと、綺麗なお姉さんが迎えてくれました。
お姉さんは明るく、
「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか?」
と聞いてきたので、
「はい、予約のYです」
と答えると、中へ案内されました。
建物の外観に反して、中はホワイトとベージュでまとめられた落ち着いたワンルームでした。
アロマのいい匂いがするその部屋は、部屋の中央に棚があって、その横にハンド用の椅子とテーブル、奥の方にフット用のソファーがありました。
中央の棚には、プリザーブドフラワーやハーバリウムが飾られていておしゃれでした。
お姉さんが、
「ネイリストの井村です。よろしくお願いしますー。施術の前にこちらご記入ください」
と渡してきた紙に住所氏名や爪に関するアンケートを記入しながら、「もしかして良いサロンにあたったかもしれない」と思いました。多分駅からちょっと歩くから空いてたんじゃないかなと。
お姉さんに紙を返すと、早速施術が始まりました。
具体的な内容は覚えていないんですけど、「今日合コンがあって」って話をしたら、「じゃあ気合い入れていきましょうね!」って言われたのを覚えてます。
施術中は連日の仕事の疲れもあったので、半分寝ながらお姉さんの指示に従って爪をライトの機械に入れてました。
私結構爪が薄いんで、ネイルが硬化する時の熱がちょっと痛いなーって思ったんですけどいうほどじゃないなーって。
でも段々本気で痛くなってきて、眠気が飛ぶくらい痛かったので覚醒したんです。
そしたら部屋全体が焦げ臭くて、ネイルを見たら、
火傷してるんです。
何これ⁉︎と思って爪を見ていたら、お姉さんが「どこか気になる箇所はありますか?」って普通に聞いてくるんですよ。
この人おかしいんだ、って思ってお金を置いて逃げるようにサロンを出ました。
爪はめちゃくちゃ痛くて、土曜もやってる皮膚科を探して治療してもらったんですけど、お医者さんは
「どうしたらこんな爪になるの?」
って不思議そうでした。
それで少し遅れて合コンには行ったんですけど、皆爪を見て、「どうしたの?」っ心配されて、合コン中も爪が痛いしで散々でした。
早々に家に帰って「サロンA」の評判を調べたんです。っていうかもう低評価の口コミ書いてやるぞって思って検索したんですけど、それで出てきたのが、
マンションT 火事で全焼 男女九人死亡
って記事が出てきて、え⁉︎って思って調べたら、あのマンション火事で全焼してて、死亡した人の欄に井村 奈々(二十八歳)って書いてあったんです……。
もう心臓がドキドキして、今日行ったネイルサロンは何だったんだろうって思って。でも確かに両手の爪はズキズキ痛むんです。
すごく怖くなってきて、メイクを落としてお風呂には入らずにベッドの中に入ったんです。
でも火事のことを調べるのはやめられなくって、現場の写真や井村さんの写真を確認して、「確かに今日会ったのはこの人だ」って思うと震えてきました。
そこで仲のいい友達に電話で今日あった出来事を話したんです。怖かったのですっぴんだったんですけど画面をオンにして顔を見ながら話してると段々落ち着いてきました。
友達も最初は信じてなかったんですけど、記事のアドレスとか画面越しに爪を見せたりすると信じてくれて、寝る寸前まで通話して、ほぼ寝落ちしたんです。
真夜中、焦げ臭くて目が覚めました。
体は金縛りにかかっています。
もう嫌な予感しかしません、なぜなら、枕元に誰かの気配があったからです。
見てはいけない、そう思ったんですけど「……て」って声が聞こえたので枕元を見ちゃったんですよ。
そこには焼け爛れた井村さんがいました。
「……て」
「……けて」
「Yさんたすけて‼︎」
私は恐怖で気絶してしまいました。
翌朝、目が覚めると枕元に煤のようなものがついていました。
その日中にお祓いに行ったのですが、どうも落ち着かなくて。
何せ、ネイルサロンで住所と名前、書いちゃってましたからね。
それでその後引っ越しました。
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