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うらやましい
「あーようやく片付いた!」
夕方、私は引っ越しの荷解きを一通り終えると、思わず独り言を言ってリビングのソファでくつろいだ。
社会人二年目の夏。こんな半端な時期に引っ越したのは理由がある。
それは前の家が手狭になったからだ。前の家の間取りは1LDK。一般的な一人暮らしであれば事足りるはずだが、経営者である父から頻繁に服やバッグを買ってもらっていたので、それらを仕舞う収納スペースが足りなくなった。
それにかわいいトイプードルも飼いたかった。だから両親にお願いして二回目の引っ越しをした。私に甘い両親も流石に苦い顔をして「掃除はちゃんとできるの?」とか「ペットの世話も自分でやらないといけないのよ?」と聞いてきたが、私は「もう私も大人なんだから全部ちゃんとできる!」と大見得を切ってこの2LDKの家に引っ越しをしたのだ。
私は早速部屋の写真を撮って、フォトスタグラムという画像を中心としたSNSへ投稿した。さりげなく流行のネイルとおしゃれな家具たちが映るようにするのも怠らない。
【引っ越し完了〜!新生活楽しみ♪】
家賃は二十万円。親のコネで入れてもらった会社の給料は平均よりだいぶ良い方だとはいっても、大半は月々の美容代に消えていくので、家賃の半分は親が払うことになった。
今日は土曜日。部屋が片付いたので明日はペットショップへ犬をみにいくことにした。近場のペットショップをスマホで検索していると、フォトスタグラムから大量のいいね!とコメントの通知がきたので返信していく。
【@miyumayu_risa 新しいお部屋も可愛いですね。憧れます〜!私もお部屋掃除頑張りますっ】
そりゃそうだ。新しい家具家電を一式新調したのだから可愛くないと困る。
【>@miyumayu_risa いつもコメントありがとう♡部屋褒めてくれて嬉しい!お部屋掃除頑張って〜】
【@runaandtaka_love 私たちも引っ越す予定なのですがこんなにおしゃれな家具揃えられないです〜。マイコさんめっちゃ羨ましいです><】
家具は父のコネで輸入してもらったものもあるので日本ではまず手に入らないだろう。このアカウントの生活レベルならなおさらである。私は優越感に浸りながら返信する。
【>@runaandtaka_love コメントありがとうございます。引っ越しはマジで大変なので頑張ってください〜。家具は意外とプチプラなのもあります笑。高見え家具探してみてください】
私のフォトスタグラムのフォロワーは一万人。一般人にしてはかなり多い方だと思う。その理由はきっと私が流行に敏感かつ「そこそこ」可愛いから。そんな私がちょっと高いお店でご飯をしたり、父が買ってくれたブランド品を身につけた写真をアップロードすると、他の人は「自分も背伸びすればこのくらいは……」と夢見ることができるからだと思う。
港区女子には及ばないけれど、あの界隈は青天井であるということを悟っているので張り合わないことにしている。いくら実家が会社を経営していると言ってもそこまで大きい会社ではないのだ。私は身の丈にあった人生を送ることにしている。
全てのコメントに返信していたら夜が明けてしまうので目ぼしいコメントだけに返信すると、夜のルーティンであるヨガをやってから半身浴をすることにする。
明日どんなワンちゃんと出会えるのか楽しみに思いながら、眠りについた。
翌日。化粧をして服を選んで、なんだかんだ家を出たのは十五時過ぎになった。最寄りのペットショップまでは電車で一駅。事前にそのペットショップはフォトスタグラムでチェックしていたのでどんなワンちゃんがいるのかはわかっている。その中から買う予定のワンちゃんももう決めてあるので、私は楽しみにしながらペットショップへ向かった。
ペットショップへ着くと、一目散に目当てのワンちゃんがいるショーケースへ向かう。毛色はアプリコット、女の子、生後二ヶ月。よちよち歩きが可愛い。値段は約五十万円。少々高いけれど、父にお願いしたら「世話はちゃんとするんだぞ」と言ってお金をくれた。
化粧っ気のない女の店員さんに「あの子をお迎えしたいんですけど」と言うと彼女はニコリと笑って、ショーケースから子犬を出してくれた。すごく可愛いし写真映えもしそうだ。ワンちゃんは愛想よく尻尾を振ってくれている。
「あら、相性も良さそうですね」
「わ〜嬉しいです〜」
それからワンちゃんを迎えるための首輪、リード、ゲージ、キャリー、ごはん、トイレシートなどを買って大荷物になったのでタクシーで帰る事にした。帰り道は通販サイトでワンちゃんに似合いそうな洋服を購入した。
そうだ、名前、何にしよう。女の子だしあんまり仰々しいのは嫌かな。この子は六月八日生まれ。花言葉を調べると「ジャスミン」とあったのでそのままジャスミンちゃんと名付けることにする。
タクシーを降りると自分の部屋に入り、リビングでジャスミンちゃんをキャリーから出してあげる。そしてゲージをセットし、トイレシートも隅っこの方にセットした。店員さんがお部屋に慣れるまではそっとしておいてくださいとのことだったので様子を見守りつつ紅茶を淹れた。
ジャスミンちゃんはウロウロと部屋を探索している。途中で何かを見つけたようなそぶりを見せたが私からは何も見えない。何十分もウロウロしてそろそろ慣れたかな、と思った私はそっとジャスミンちゃんに近づいて写真を撮った。本当は服を着せてから撮ってあげたかったけれど、フォトスタグラムに投稿したいと言う気持ちの方が優ってしまったのだ。
何枚か連写するとちょうど目線をくれた写真が撮れた。夕方だが夏の強い日差しはまだ続いており、光源も申し分ない。
今すぐにフォトスタグラムに投稿したかったけれど、フォトスタグラムの閲覧者が多い夜に投稿した方が伸びがいいので、登校は夜にすることにして、私はソファでお昼寝をすることにした。本当はジャスミンちゃんと寝たかったけれど、まだ部屋に慣れていないだろうから我慢した。
ジャスミンちゃんの唸り声で目覚めると外はすっかり夜だった。時計を見ると九時。かなり寝すぎてしまったようだ。
ジャスミンちゃんはドアノブに向かって唸り声をあげている。私はどうすればよいかわからずにとりあえずジャスミンちゃんの元へ向かった。
私が近づくと、ジャスミンちゃんはクーンと鼻を鳴らしながら私の背後に隠れる。私は慣れない部屋で放置されて心細かったのかな、と思ってジャスミンちゃんを抱きしめた。そうしてしばらくしているとジャスミンちゃんは落ち着いたので、一緒にソファまで行って夕ご飯を食べることにする。
まずは私の夕ご飯。今日はジャスミンちゃんを買いに行って疲れたので冷凍食品で済ませることにした。レンジで冷凍のたらこパスタを温めている間に、ジャスミンちゃんのご飯を準備して食べさせた。
そして私は自分の夕ご飯を食べながらフォトスタグラムに投稿する。
【今日、新しい家族が増えました!トイプードルのジャスミンちゃんです。新しい環境に早く慣れてくれるといいな。これからは毎日ジャスミンちゃんの写真の投稿ばかりになりそう笑】
投稿前にジャスミンちゃんの写真写りを再度確認してから投稿した。するとまたたく間にいいね!とコメントの嵐だ。
【@sskmkk1998かわいいですね!私もワンちゃんほしいんですけど飼えないマンションなので羨ましいです】
【@miyumayu_risaキャー!かわいい!毛色はアプリコットですか?うちの子はブラウンです】
ジャスミンちゃんを可愛い!と褒めてくれるコメントや部屋がきれいなんて言うコメントばかりで嬉しくなる。
しかしふと気になるコメントがあった。
【@sayusayu_fin0528赤ちゃんが写ってる】
【@runaandtaka_loveマジだ!】
【@loveandpeace_dreamえ、怖。。。】
【@minaandcoワンちゃんの後ろまじで写ってる】
荒しかと思ったけれど、いつも仲良くしているフォロワーさんも同調していたので改めて写真を見る。
バッチリ可愛く目線をくれているジャスミンちゃんの後ろにモノクロっぽい感じで赤ちゃんのようなモノが写っていた……。口や目は黒く、光はない。四つん這いでこちらをじっと見ている。
こんなの、写真を撮ったときはいなかった。何度も写真を確認したのでこれだけは確実だ。フォトスタグラムに投稿した写真を加工する何らかの方法があるのだろうか?
念の為、自分のスマホの写真フォルダを確認する。すると――
嘘、でしょ……。
何枚も撮ったジャスミンちゃんの背後にはその赤ちゃんらしきモノが写っていた。絶対さっきまではなかったのに。
さっきジャスミンちゃんが唸っていたのはこの赤ちゃんに対してだろうか?ここって心霊物件?そんな話は聞いてないし、家賃も相場より高いくらいなのに。
とにかくこんな写真はフォトスタグラムに掲載しておくわけにはいかないのですぐに記事を削除する。ジャスミンちゃんの写真は明日外に行った時にでも撮ろう。
こんな赤ちゃんの幽霊がいる場所でこのまま夜を明かしたくはない、けれど私の両親は心霊なんて信じていないし、写真を見せても「光の加減でしょ」とか「カメラがおかしいんでしょ」と言って取り合ってはくれないだろう。
そんな親に大見えを切ってマンションを借りたので、このくらいで実家に帰ったら「ほらやっぱり」と親に言われるのが目に見えるようだ。
……実害があるかはわからないし、とりあえず今晩は様子を見よう。
そう決めた私は恐る恐るお風呂に入って、寝室で寝た。寝室にはジャスミン用のクッションも置いて一緒に眠った。子犬とはいえ、自分以外の存在がいるのがこんなに心強いとは思わなかった。
赤ちゃんが床を這っているのを見守っていた。これは夢だという確信がある。はいはいしている赤ちゃんは可愛らしく、目も口も可愛い、普通の赤ちゃんだ。嫌な感じはしなくて……とても悲しい気持ちになった。
翌朝目覚めるとジャスミンちゃんはまだ寝ていた。結局心霊現象は写真だけで、それも悪い幽霊じゃなさそうなのでホッとした。でも写真に写るのは勘弁してほしい。心霊写真なんて投稿していたらフォトスタグラムでの評判が下がってしまう。
そんなことを考えながらも、ジャスミンちゃんの写真を撮るためにベランダに出る。室内だとまた心霊写真になってしまう可能性があるのと、ジャスミンちゃんはまだ狂犬病の予防接種を済ませていないのでお散歩はまだできないからだ。
ジャスミンちゃんは初めて出るベランダに興味津々で、朝の光の中のその姿を写真に収めると、入念に画像をチェックして投稿した。
【昨日、新しい家族が増えました!トイプードルのジャスミンちゃんです。新しい環境に早く慣れてくれるといいな。これからは毎日ジャスミンちゃんの写真の投稿ばかりになりそう笑】
この投稿には変なものが写ってるというリプライもなく、みんな可愛い可愛いとジャスミンちゃんのことを褒めてくれたので満足した。
その日はそれから出社してダラダラと仕事をしていたが、ふとさっきの写真にどれくらいの反応が来ているか知りたくなって、化粧室にいくついでにチェックすることにした。スマホを見るとたくさんの通知が来ていて満足する。フォトスタグラムをひらき、反応をチェックするついでにフォロワーの近況もチェックした。目ぼしいものには後でコメントを入れなくてはいけないのでその目印にいいね!していく。
【なんと昨日、一年付き合った彼氏からサプライズでプロポーズされました!本当にびっくりして声が出なかった笑】
えー……。この子は大学の同期で一番仲良くしていた子だ。在学中は恋愛するタイミングが図ったかのように同じで、いつも一緒に悩んだり愚痴ったりしていた子なのに、まさか先を越されるとは。ってか付き合ったこと聞いてないんですけど!
写真は夜景の見えるホテルの高層階のレストランだ。彼氏にもらったエンゲージリングをつけて涙目になりながら彼氏とのツーショットを撮っている。羨ましすぎる……!
しかもコメントもいいね!も沢山ついていて、みんなから祝福されているようだ。私も渋々いいね!を押して、さらにメッセージアプリで「婚約おめでとう!」と個別にお祝いのメッセージを送った。
エンゲージリングはどこのだろうか?写真を拡大して特定作業をする。大きいダイヤがはまった立派なものだ、この形は0℃かな?そう思って調べてみると当たりだった。価格は四十四万円。エンゲージリングにしては普通かちょっと安いくらいだ。
私はすぐに父に連絡して「今日の仕事帰りに買い物行こ!」と言った。父は私に甘いので二つ返事で了承した。そしていろんなブランドのサイトを巡ってなんのバッグを買うか真剣に考えているうちに午後の業務は終わっていった。
会社の帰り道に父と合流し、私はチェックしていたブランドの店まで父を引っ張っていく。傍から見たらラウンジ嬢と客のようだが、そんなことを気にしている場合ではない。
「どうしたの舞子ちゃん……?急にバッグが欲しいだなんて……」
「どうしても欲しいバッグがあったの!」
実際はそんなに欲しいわけでもなかったのだが、友人の婚約に張り合えるようなバッグを買ってフォトスタグラムにアップロードしない限り気が済まない。赤ちゃんの幽霊が映っていれば削除したらいいだけだし。ってか赤ちゃん幽霊は床をはいはいしているから、床さえ写さなければ映ってこないだろう。
エンゲージリングの値段から考えて最低五十万円はするバッグを買わないと気が済まない。私はSUCCIというブランドの限定デザインのハンドバッグにすることにした。
「ちょっと高いねえ」
「どうしても欲しいの!!お願い〜」
「仕方ないなあ。お母さんには内緒だよー」
SUCCIのバッグを手に入れた私は「一緒に晩御飯でも食べない?」という父を「また今度」とあしらって帰宅すると、早速袋からバッグを出してスマホをスタンドに取り付けると、室内灯と夕日を光源にしてバッグを持った自分を写真に納めた。やはり自然光が一番盛れる。私は夕日が出ている時間帯に帰ってきたくて夕食を断ったのだ。
何枚か撮った写真を見比べて、程よく部屋のおしゃれ感とバッグが引き立っていて自分の顔も盛れている写真を厳選した。
そうしているうちに夕ご飯の時間になったので、バッグを部屋の隅に置いて着替え、夕ご飯を作ることにする。今日の投稿のメインはバッグだし、友人が婚約した投稿の前ではおひとり様ごはんの投稿は虚しい気がしたので、今日も冷凍食品で済ませることにする。
ジャスミンちゃんが遊んで欲しそうだったのでレンジで食品を温めている間に適当に遊んで一旦自分の夕ご飯を済ませると、ジャスミンちゃんにもご飯をあげた。その隙にトイレシートや水を取り替えておく。
そして今日もフォトスタグラムに投稿をする。昨日の心霊写真騒ぎは忘れて閉まっていた。赤ちゃんだし、なんか悪い感じはしなかったしきっと大丈夫だろう。
【今日は父からサプライズでバッグを買ってもらいましたー!SUCCIの限定バッグです。本当に突然でびっくり!「いつも頑張っているからご褒美」だって。優しい家族に恵まれて幸せです】
ふと見るとジャスミンちゃんがまたドアノブに向かって唸り声を上げている。私は「怖くないでしゅよー」とジャスミンちゃんをあやしてゲージの中へ戻した。早くも投稿に反応がある。お風呂場でゆっくり見ようと思い、スマホを持ってお風呂へ入った。
【@miyumayu_risa SUCCIのバッグ、憧れます〜!私はいつも中古品です。いつか新品を買えるように貯金頑張ります】
【@marina_ge0209 バッグ可愛いですね!お部屋も綺麗で羨ましい】
新作の限定バッグの効果はすごく、あっという間にいいね!が何百も押される。さらにコメントも賑わっていて満足だ。
しかし――
【@sayusayu_fin0528ドアノブに女が写ってる】
【@rurihanacafe わ!今度お店に来た時セージ渡しましょうか?】
【@runaandtaka_love お祓い行ってください】
そんなはずはない。何度も何度も確認したのだ。
しかしこのコメントを見てから写真を見ると……。
ドアノブで首を吊っている女が写っていた。
「キャー」
私は叫んで急いでお風呂から上がって服を着た。もちろんスマホの中の画像にも全て「あの女」が写りこんでいることも確認する。私は怖くて脱衣所から出られなくなってしまう。なぜなら「あの女」が首を吊っているのはこの脱衣所の扉のリビング側だからだ。どうしよう。
心臓が破裂しそうなほど脈打っている。ジャスミンちゃんが唸っていたのはこれに対してではないだろうか?
……この「@sayusayu_fin0528」というアカウント、もう消してしまったけれど赤ちゃんが写っているのを最初に指摘したのもこの人だったはず。もしかしたら霊感があるのかもしれない。……対処法を知っているかも!
そう思って「@sayusayu_fin0528」のアカウントのページに飛ぶと、プロフィールには何も記載がなく、ただ家の中の様子が映されていた。
私の家とよく似た作りで、低い位置から部屋の写真を撮っている。
そう、ちょうどドアノブにもたれるくらいの目線の高さで。
「@sayusayu_fin0528」の投稿は今年の五月二十九日から始まっていて、質素な部屋の写真が毎日投稿されている。
しばらくすると一旦家具がなくなって、しばらくした後見知った家具が運び込まれ、今日の投稿にはSUCCIの新作の限定バッグも端に写っていた。……これは私の部屋だ。
そう気づいた瞬間、ドアノブの向こう側がギッと鳴る。ジャスミンちゃんの唸り声が聞こえてくる。
背筋が凍りつく。間違いなく、いる。
途端に脳裏に虚な目をした髪の長い女……ボロボロのスウェットを着た……が浮かんできた。
ああ、この人なんだ。この人がこのドアの反対側にいる。
もう耐えられなくなった私は、実家に帰ることにした。親にどう言われたって関係ない。ドアを勢いよく開けて、ジャスミンちゃんをキャリーに入れて、タクシーに乗ろう。
意を決して、ドアを開ける。
どす、と何かにドアがぶつかり開かない。まるで誰かがもたれかかっている様な。
だめだ、想像したら負ける。
私はドアを思いきり蹴り、開けた。後を振り返らずに唸るジャスミンちゃんを抱えてキャリーに入れる。
そして家のドアのところで靴を履いて――
気がつくと私は浴室のドアの前にいた。ジャスミンちゃんを抱えたと思ったけれど、手にはフェイスタオルを持っている。
目の前には虚な目をした女が何か呟いている。聞いてはいけないと思いながらも、その掠れた声は自然と耳に入ってきた。
「……うら……やま……しい……」
旦那の同僚は毎年海外旅行へ行っている。同級生はエステへ通って若々しいままだ。職場の後輩は海外で盛大な結婚式を挙げた。友人は会社を経営して、この前なんだかっていう雑誌に凄腕女性経営者として掲載された。
私は、私だけがあの赤ん坊とずっとこの部屋で二人っきり。最後に旦那と出かけたのはいつだろう?今日も旦那は飲み会があると言って帰るのが遅い。旦那は稼ぎはあるけれど、「女はすぐ浪費するから」と言ってお金を最低限しか渡してくれない。でも知っている、キャバクラの女に沢山のブランドのバッグを貢いでいることを。私と行ったことのないお店で、美味しいご飯を食べていることを。
私はその間ずっと旦那の子と二人っきり。泣いているのをあやして、おむつを変えて、二十四時間ずっとこの子の相手をしなければならない。
羨ましい、全てが羨ましい。
婚約した友人。彼氏と順調な同期。毎日飲み歩いては自分の美貌を売りにお金を稼ぐ港区女子。私より実家がお金持ちで、親にいちいち頼まなくても親のカードでバッグもアクセサリーも洋服も買い放題な幼馴染。
羨ましい、全てが羨ましい。
私の手はフェイスタオルをぐるぐると巻いて首に巻きつけ、しっかり結ぶと、目の前のドアノブに引っ掛けて、思いっきり体重をかけた。
ギッ。
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