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埋葬
土を払い、蓋の木板をどかすと、そこにはちょうど大人ひとりが膝を抱えて入れるくらいの四角い穴が空いていた。
「先月、離檀した一家が墓を移したんだ。死体を入れるのに、墓ほど適した場所はないだろ」
額にびっしり汗をかいた鍋島が、口調だけはいつもどおりに言った。
本堂の北に広がる墓地。二人がかりで田宮を運んできた俺と鍋島は、ぽっかり空いた漆黒の空間にそれを放り込んだ。
「最適解だな」
「だろ。森に穴を掘って埋めるより、断然見つかりにくい」
森に落とし穴を作る際に掘りだした土を、田宮の背中にかける。暗くなる前に袋に詰め、密かに運んでおいたものだ。
「夏までに、土に還るかな」
「どうだろう。匂いが漏れ出ない程度に分解されるよう祈祷しておくよ」
「匂いか……」
ここに埋めた田宮が見つかれば、真っ先に疑われるのは鍋島だろう。話し合って決めたこととはいえ、これでいいのかと迷いが走る。
黙った俺の逡巡に気づいたのか、鍋島が「大丈夫だ」と静かに言った。
「毎朝おれが掃除してる墓地だから、異変があれば対処できる。十五年もすりゃ、寺もおれが継ぐ。おれが背負っていくよ、ずっと」
「お前さ、一人でかっこつけんなよ。殺ったのは、俺だし」
「そうだな。おれたち二人で、背負っていくんだよな」
鍋島の言葉にうなずきかけた俺は、首を横に振った。
「違う。俺たちは、三人だ」
「……ああ」
鍋島が穏やかな微笑を浮かべて首肯した。
「俺たち」は、あの頃も、これからも、三人だ。
「行こう、ミヤのところに」
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