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小四、夏
「くらえっ! ユーカリレモン攻撃ぃ!」
秘密基地と呼んでいる森の東家で、ミヤは肌用虫除けスプレーを銃みたいに構えて、あたりに撒き散らした。
「やめろミヤ、スプレーの無駄だ」
口ではそう言うけど、顔が笑ってるのがナベのいいところだ。
「てゆうか、俺ら寺の敷地でこんなに虫殺して大丈夫なんかな」
腕にとまった蚊を叩き、手のひらについた血を見ながら聞いた俺に、寺の跡継ぎのナベはクールに答えた。
「無為な殺生じゃなければ大丈夫だろ」
「ムイナセッショーって?」
「意味なく殺すってこと。だろ? ナベ」
ミヤに説明した俺に、ナベがうなずく。
「じゃあオッケーじゃん。これってほら、正当防衛ってやつだし」
「だな」
「まぁ、うん」
俺とナベの同意を得たミヤはニカッと笑って、「おらおらおらーーっ!」と言いながらスプレーを撒き散らした。
小四の夏休み。俺とナベとミヤはほとんど毎日、この森の東屋で過ごしていた。トランプをしたり漫画を読んだり、電波も電源もない森の中でも、三人でいれば退屈なんかしない。木が日差しを遮るおかげで、エアコンがなくても暑さはしのげる。最大の敵は、いくらでも湧いてくるヤブ蚊だった。
俺たちの武器はといえば、ナベが寺から持って来た蚊取り線香と、ミヤのユーカリレモンくさい虫除けスプレー。それに、俺の母親が三人に揃いで買ってくれた、手首にはめる虫除けリングだ。トリプルバリアで守られた俺たちは、それでもたまには猛者に刺されながら、秘密基地を死守していた。
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