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 控えめなノックを二度してから、俺はそっと病室のノブを回した。個室には読書灯がついていて、ベッドのリクライニングを起こした蓮見(ミヤ)が、顔をこちらに向けて座っていた。 「起きてたのか」  先に部屋に入りながら、鍋島が小声で言う。 「寝てていいって言っただろ」  時刻は二十三時。俺と鍋島がここを出てから、五時間が経っている。  ミヤはまだ青白い顔で、弱々しく首を振った。 「二人に全部任せて、あたしだけ寝てらんない」  ミヤは知っている。遺書という嘘で、田宮を森に連れ出したことを。そこで俺と鍋島が、何をしたのかも。  すべて、この部屋で話し合った計画だからだ。 「全部終わった」  そう告げるとミヤは、「ありがとう」と静かに言い、細い手で俺と鍋島の手を取った。 「ごめんね……二人とも、人のためになる仕事をする、大切な手なのに」  手は洗った。二人で交代に、何度も、何度も。中に入った土をかき出しすぎて、爪が赤くなるほどに。  けれどミヤには見えているんだろう。田宮の血に染まった、俺と鍋島の手が。 「一切唯心造。おれは自分が悪行をはたらいたとは思っていない」 「イッサイユイシンゾー?」 「善悪を決めるのは自分の心だ、って意味。だろ? ナベ」  俺の解説に、鍋島とミヤがそれぞれうなずく。 「おれは、信念を持って田宮(あいつ)阿鼻地獄(あびじごく)に送ってやったんだ」
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