夜の森

3/3
前へ
/15ページ
次へ
「うわっ!!」  ズボッという低い音と、田宮の悲鳴が森に響いた。東屋の手前で落とし穴にはまり、小柄な田宮の上半身が地面でもがいている。鍋島が無言で照らした田宮の首に、俺はポケットから出した荷造り用のロープを手早く巻きつけた。 「な……っ」  振り向きかけた田宮の背中に靴裏を当て、俺は渾身の力でロープを引っ張った。  一周巻いたロープの端が、軍手ごしに両手の指に食い込む。引き続ける腕がぶるぶる震える。自分が首を絞められているかのように苦しい。自分の鼓動と荒い息が、やたらと大きく頭の中で反響した。  いつまで……いつまで絞め続ければいいんだっけ…… 「佐野」  キーンと耳鳴りが響く頭の中に、鍋島の声が割って入る。 「佐野、もういい」  鍋島の手が、俺の肩にポンと置かれた。それが合図だったみたいに、全身から力が抜ける。  落葉の上にへたり込んだ俺の手から、鍋島がゆっくりロープをほどいた。その顔は、たぶん俺も同じだっただろうけど、緊張と恐怖でひきつり震えながら、不器用に笑っていた。 「やったな、はるちー」 「あぁ……」  俺は大きく息を吐き、鍋島──ナベが突き出した拳に、自分の拳をそっとぶつけた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加