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一方その頃の香澄は、膨れ始めたお腹をさすりながら、ノートPCを置いたこたつ机の前に座った。
前は300円ショップで買った座布団1枚だけだったのだが、先日涼が「少しでも香澄と赤ちゃんが楽になるように」と座椅子を与えてくれた。
元々腰痛持ちでもあった香澄にとって、へたりにくいポケットコイルの椅子はとてもありがたかった。
座面と背もたれが、いい感じにカーブしてくれており、背中とお尻をすっぽりと包んでくれる。
最初は、涼に何かを買ってもらうことすら躊躇っていた香澄だった。
だが、受け取りを拒否しようとすると、涼がしょぼ〜んっと表情を曇らせるので、その顔を見るのが忍びなくて「ありがとうございます」と、受け取ったのがこの座椅子だったのだ。
結果、前よりずっと体が楽になったのだが、この日以降、涼は次から次へと香澄に物を買い与えるようになった。
スキンケアグッズに、高級パジャマ、マッサージ機器などなど……。
「こんなにたくさんのプレゼントいただいても、返せないですよ」
香澄が、何度もそう言っても涼はその度に香澄を抱き寄せながら
「君と、僕たちの赤ちゃんのためにできることは、何だってしたいんだよ」
「だからって……」
香澄がさらに反論しようとすると、涼は自分の端正な唇で、香澄の唇を奪って声を塞ぐ。
「んんっ……」
そうして、涼は、ぺろりと香澄のあちこちを味わい、香澄を自分の胸の閉じ込めながら毎度この言葉を香澄に捧げる。
「愛しているよ、香澄」
こんな完璧な人になぜ自分が愛されるのか、香澄には理由が全くわからなかった。
愛してくれている、という事実は体でも繰り返し受け止め続けている。
例え今、肉体で結ばれることが難しかったとしても、彼は違う形で愛を繰り返しぶつけてくれる。
そして香澄は、その愛を感じる日常が当たり前になり始めているのが……怖くなっていたのだ。
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