第1章 SSRって、何?

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 昔みたいに「1人でいればいい」とは、香澄はもう思わない。  と言うより、思えなくなってしまった。涼のおかげで。  香澄は、想像ができてしまうようになった。  もしも香澄が「1人で生きたい」と言った時、きっと涼はまるで地獄の底にでも突き落とされたような表情をするのだろう、と。  香澄は、涼にそんな表情をさせるのは、嫌だと思えるくらいには、涼を愛おしいと思った。  さらに日に日に育っていく赤ちゃんも、最初存在を知った時は戸惑うだけだったが、今では5分に1回は撫でてやりたい程、愛おしい。  少しでも赤ちゃんが喜ぶようにと、前はそこまで気を使わなかった食事にも、だいぶ気をつけるようになった。  妊婦が摂るべき栄養素である葉酸やカリウム、タンパク質、ビタミンが入ったサラダやおかずを、体調が良い時には自炊するようになった。  とはいえ、涼も涼で、香澄のためにデパートで惣菜を毎晩買ってきてくれる。高級食材を使ったそれらが美味しくないはずは決してないのだが、困ったことにそれらは少しカロリーと塩分が高め。  そのせいか、健診で注意されてしまった。  少し、太り過ぎである、と。 (ど、どうしよう……)  香澄は、自分が決して美人ではないと自覚している。  涼がどんなに可愛いと言ってくれても、涼の事務所にいるようなハイスペ美女には、逆立ちしたってなれない。  それなのに、自分はどんどん体型が崩れていく。  今はワンピースを着ればまだ隠せる範囲だけれど、あと少しすれば一気にお腹が出る。  それまでは、まだ良い。  赤ちゃんが出てくる喜びが待っているのだから。  問題は、赤ちゃんがお腹から出てきた後なのだ。  ネットで調べてみると、出産した後に「女として見られなくなった」と、性的な行為ができなくなり、離婚した事例がたくさん出てきた。  涼と香澄が結ばれたのは、たった1度きり。  本当なら、それだけで満足すべきだったはずなのに、涼が側にいてくれるせいで、香澄はほんの少し欲が深くなったのだ。  できるなら、もう1度だけでもいいから女として涼に愛されたい、と。  だから、香澄はこっそりと調べていたのだ。  出産後に、再び女として見てもらえるにはどうすればいいのか、と。  そうして見つけたのは、産後体型戻し用のランジェリーや整体、エステなどの情報だった。  どれを選んだとしても、香澄の今の給料ではとても太刀打ちできないほどの金額。まして、理由が理由なだけに涼に相談するなんてできるはずもない。  その結果、仕事が完全にできなくなる出産間近までに、自分で自由に使えるお金を貯めたくて、仕事を貰う先を増やさざるを得なかったのだ。
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