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元々拓人の元でヒット作を生み出した経験もあったためだろう。
拓人に内緒でこっそりポートフォリオを送った別のゲーム会社からは、トライアル試験もなしで
「じゃあ、この仕事を早速」
と依頼をもらうことができたのだ。
仕事内容は、去年頭にリリースされたばかりの恋愛系シミュレーションゲームアプリの、あるキャラクターのためのイベントシナリオの執筆。
もらった企画書とキャラクター設定を見た時に、香澄は「自分にやり切れるだろうか……」と一抹の不安を覚えた。何故なら、自分が全く得意としない男性の性格だったから。
香澄が得意なのは「セクシー系」「王子様系」「おねえ系」と呼ばれるキャラクターなのだが、今回割り当てられてしまったのが、よりにもよって「俺様系」だったのだ。
(ど、どうしよう……)
俺様系のキャラが出てくる漫画やアニメは数多く楽しんできた経験はあるものの、香澄にはどうも「俺様系」が生理的に合わなかった。
上から目線でキャラクターに命令するところが特に、過去の香澄の傷を抉ってくるから。
とはいえ、仕事は仕事。
持ち前の研究心を駆使し、似たようなキャラクターが出てくる恋愛ゲームを数多くこなしながら、どうにかキャラクター性を掴めるようにまではなってきた。
ただ、キャラクター性を掴めるようになることと、クライアントが満足するシナリオを書くのは別の話。
香澄は、自分が妊娠中である事実をひた隠しにしながら、クライアントに少しでも満足してもらえるようにと、仕事のレスポンスを少しでも早くしていたのだった。
その結果どうなったか。
クライアントが香澄の仕事に対する姿勢を気に入り、次から次へと
「このゲームのシナリオは書けないか?」
と仕事が降ってくるようになったのだ。
それも、全員俺様キャラ。
香澄が担当しているキャラの名前こそが、立花潤、カミーユ、桜井健一、真田邦彦だったりするのだが、もちろんこのことを涼も拓人もまだ、知らない……。
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