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(恋は人を変えると言うけれど、もはや憑依……!?)
拓人は、自分が生まれた頃から涼の性悪クズな面ばかりを見続けてきた。
そのため、涼が変わったきっかけが拓人が可愛がっている香澄であると分かっていても、変わり幅が月と地球の距離くらいはあるであろうこの状況はゲシュタルト崩壊ものだった。
(香澄……ほんとあなたって、恐ろしい子……!)
拓人は、気を取り直して、涼から社外秘の資料を奪い取った。
その時「自分もそういう時期あったな……」と、ふと思い出した。
それは、書くのが苦手なキャラクターの執筆をするための研究時期。
どんなセリフをよくしゃべるだろうか。
課金に誘導する直前のセリフパターンは何か。
など、同じキャラクター性を持つキャラをわざと同時期に複数攻略をすることで、キャラ感を染み込ませようとした。
そして、自分がかつてそういう研究方法をしたことを、香澄は知っている。
「あのさ……」
本当は、自分がこんな事を伝える義理もないし、なんだったらもっと苦しめばいいとすら思っている拓人だったが……。
「何ア●ゾンで検索してるのよ」
「俺様猫になる方法」
「もっと頭を正しく使いなさい!弁護士!!!」
このまま放置すると、身内が変態で捕まるかもしれないのでは……という恐怖の方が上回ってしまったので、仕方がなく拓人は教えてやることにした。
「それ、どちらかと言うと、仕事モードの香澄だと思うけど」
「仕事モード?」
「そ。その男達を好んで攻略してるわけじゃなくて、仕事で必要だから、そうしないといけないだけ。……あの子がそういう子だっていうのは、あなたが、1番わかってるんじゃないの?」
香澄の「仕事のためにセックスをする」希望を叶えた男なのだから。
すると、涼は一瞬だけぱあっと明るい表情になったが、再びどん底まで落ちた。
「え、何?」
「仕事モードってことは……満足するまでやり続けるモードってことだよね」
「え、ええ、そうね」
「ますます、嘆かわしい」
「…………あー………………」
拓人は、察してしまった。
「仕事なので」
という香澄の魔の言葉が、どれだけ涼の溺愛アプローチを無意識に突っぱねてきたかを。
しかも香澄本人は、まだそのことに気づいていない。
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