第1章 SSRって、何?

1/81

1927人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ

第1章 SSRって、何?

 その夜、拓人は感じた悪寒を無理矢理無かったことにしながら、迫り来る締め切りに間に合わせるために、机に向かった。  そして、拓人がヘッドホンをつけ、お気に入りのリズミカルな洋楽を体に染み込ませながら、自分史上の名シーンを超高速タイピングで打ち込んでいる深夜3時過ぎのことだった。  ピンポーンと、近所迷惑なインターホンが鳴り響く。  もちろん、防音完璧なマンションなので、近所迷惑ということはないが、自分にとっては大迷惑だ。  そして、こんな時間なんかにやってくる客は1人しか心当たりはない拓人は、その悪魔の足跡のようなインターホンを無かったことにしたかった。  でも悪魔は、容赦無くインターホン攻撃を拓人の気が狂いかけるまで続ける。 「ああ!もう!!」  拓人は、せっかくシャワー上がりにオイルで整えたばかりの綺麗な髪をかきむしりながら、インターホンに出た。  そして数分後……。 「拓人……話があるんだけど」 「断る」  歩く公害こと芹沢涼、もとい、自分の生物学上の兄を部屋にあげた拓人は、他の客だったらもてなしたコーヒーすらも出さず、水道水をグラスに入れただけのものを投げやりに涼に押し付けた。  「まだ、何も言ってないんだけど?」 「断るったら断る。あんたがこんな時間に訪ねてくるなんて、ロクなことじゃないのはわかってるのよ」 「聞きたいことがあるんだけど」 「どうせロクなことじゃないんでしょ?」 「SSRって何?」 「だから、断るって言ってんで……え? 何だって?」  人間とは、想像もしていない相手から聞き馴染みのある言葉を聞くとフリーズしてしまうらしい。  無駄に知ってしまった知識を、いつシナリオに使えるのだろうかと考えながら、拓人は質問内容を再度確認した。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1927人が本棚に入れています
本棚に追加