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香澄は、急いでバスタオルで体を隠した。
涼に全身を見られる事は、寝室の暗い部屋では時々あるものの、浴室は明るい。
ただでさえ、涼からの見られ方を気にした結果、手入れグッズを買うために仕事の量を増やしたのだから、今この状況で涼に見られるのは、香澄にとってはなかなかの地獄だった。
「ご、ごめんなさい……!!」
香澄は、タオルで体を隠したまま浴室へと早歩きした。
少し前までは、油断するとつい走ってしまいそうになっていたが、もうそんなことをしてはいけないと分かるくらいには、香澄に母親の自覚は芽生え始めていた。
浴室の扉を閉めた香澄は、暴れ回る心臓を抑えるために、数回深呼吸をした。そのせいで、変に詰まって香澄は咳き込んでしまった。
「香澄!?」
扉越しから涼が心配する声が聞こえる。
ますます、いたたまれないと思った香澄は、涙が出るのをこらえながら
「大丈夫ですから!」
とかすれ声で叫んだ。
(どうか、私のことは放っておいて欲しい)
そんな思いを言葉に込めたつもりだった。
が、少し経って涼から返ってきたのは
「僕も一緒に入るよ、お風呂」
だった。
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