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香澄は、自分の耳を真剣に疑った。
三次元では完璧超人イケメンの涼が、二次元のキャラクターと自分のどちらが好きと聞いてくるなんて、想像したこともなかったから。
「あの……涼先生?私の空耳でしょうか?」
「何が?」
涼の声が、少しだけイラついているのが香澄にも分かった。
「あのですね……こんなこと聞くのもおこがましい気もしているんですけど……」
自分を射抜いてくる涼の鋭い視線に耐えきれなくなり、香澄は顔を逸らしながら尋ねた。
「今……ゲームのキャラクターと自分、どちらが好きかと……おっしゃいました?」
「言ったよ」
涼は、両手で香澄の顔の位置を戻し、香澄が自分の顔を見られるようにしっかり固定した。
香澄は、目をキョロキョロさせるくらいしか対抗策がなかったが、それだと涼が視界から完全に消えることはない。
あまりにも真剣な涼の表情に、香澄は顔が熱くなるのを抑えきれなかった。
涼も、それを手のひら越しに感じていた。
「顔、熱くなってるね」
「そ、それは涼先生が……」
「僕が……何?」
「…………その…………じっと私を見てくるから」
「見るよ。ずっと見ていたいよ。何だったら君の目も、僕しか見えないようにしたいよ」
そう言いながら、涼は香澄の唇をさっと奪う。
それからしばらく、香澄の唇の味を堪能してから、涼はほんの少し唇を離してからまた言葉を発する。
「でも、僕はいつも、僕との時間を君のスマホの中にいる男たちに邪魔される。それが、許せないんだ」
「で、でも彼らは二次元のキャラクターですし」
「そんな風に、君はいつもそいつらを人間のように扱うじゃないか」
「そ、それは……」
(二次元とはいえ、人の形をしているのに、それとかあれとか、物のように扱うのはさすがに躊躇われるんだよな……)
神絵師の美麗絵と神声優のイケボが組み合わさったキャラクターは、やはり香澄の中では液晶の中にいるとはいえ、人間として扱いたかった。
「また、そいつらのこと考えてるでしょう」
「え!?」
「どうして分かったの、とでもいうのかな。答えは簡単だよ。君が、僕を見ているようで見ていない視線の時は、いつも彼らが君の頭を支配してるんだ」
そう言うと、涼はもう1度香澄にキスをしてから、とんでもないことを尋ねてきた。
「どうしたら、君の頭の中から彼らを追い出せる?」
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