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パッとスマホから顔を上げた香澄は、しっかりと涼を見ながら
「お帰りなさい、涼先生」
と言った。
たったそれだけのことが、涼には踊り出したくなるくらい嬉しい。
「今日の体調は?」
涼は、荷物を置き、そのまま香澄の横に腰掛け、香澄の少しふっくらしたお腹を撫でる。
「大丈夫です。ありがとうございます」
香澄は現在妊娠5ヶ月に入っており、先日戌の日の帯祝いをしたばかりだった。
「安定期に入ったからって、油断しないでね。君がつわりで苦しんでいる時、何度君が死ぬんじゃないかと怯えてたんだから……」
「その節は、心配かけてすみませんでした」
「香澄、そうじゃないでしょ?」
「え?」
「僕が1番欲しいものは、君からの謝罪の言葉じゃないって、いつも言ってるでしょ?」
そう言うと、涼は自分の頬を指差した。
「謝るくらいなら、いつものやつ……頂戴」
この仕草といつものやつという言葉は、香澄との間でしか通じない、暗号のようになっていた。
「……わ、分かりました」
香澄は照れながらチュッと、涼の頬に触れるだけのキスを落とす。
「これで……良いですよね」
「ダメ、まだ足りない」
涼はそのまま、香澄の頬を捉える。
「もう僕は、君に飢えているんだ」
それからすぐ、涼は口を開けて香澄の唇ごと奪うような激しいキスを始めた。
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