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涼の、喉から搾り出すような切ない訴えに、香澄は驚いた。
まさか自分の1番が欲しいと、どこからどう見ても完璧な涼が思うなんて、想像すらしたことがなかったから。
「涼先生、何言って……」
「僕がこんなこと言うの、変だと思ってる?」
「そ、そう言うわけじゃないんですけど……涼先生ってずっと1番を貰ってるイメージがあったから……」
「確かに、意味のない1番はいっぱい貰ったよ」
(やっぱり……!)
普通の男がこんなこと言ったら、フルボッコにされるであろうセリフも、涼の容姿で言われてしまうと、納得しかしない。
三次元に生息している、二次元から飛び出たような男が、芹沢涼という人。
だからこそ、香澄はこうも思っている。
「私なんかが、涼先生が1番だって言って、迷惑じゃないですか?」
世の中にはブランディングというものがある。
自分を好きだと言う人間の種類によって、その人の価値が決められることもあると言う。
涼が生きている上流の世界では、少なくともそういうことが頻発しているだろうことは、香澄の小説執筆のための調査から推測はできた。
だから、香澄はやっぱり、自分が涼を好きだと言う事が涼のブランドに傷をつけるのではないかと恐れてもいたのだ。
「私にとって涼先生は1番ですけど、私が1番だって言った事が誰かに知られたら、涼先生が嫌な思いをするんじゃ」
ないですか?と言おうとした香澄の唇を、涼は急いで自分の唇で塞いだ。
むさぼるようなその口付けは、香澄の悩みを溶かしていくように、熱くて甘い、ハチミツのようなものだった。
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