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それから数分後。
ほぼ半裸状態の涼と、ばっちり化粧の拓人が、リビングで仁王立ちしながら睨み合っていた。ちなみに、香澄の父と祖母の遺骨付きの仏壇は、しっかり背景として佇んでおり、ただただシュールな光景だった。
「何を、していたのかしら?」
「どういう意味かな?」
「……あんたが私の家から帰って、どれくらい経ったと思ってるのかしら?」
拓人はスマホの時計アプリをわざわざ見せながら言うが、涼は華麗に視線を逸らしながら微笑んだ。
「僕に時間という概念は存在しないよ」
「適当なこと言ってんじゃないわよ!どうしてあんた今、タオル1枚だけの半裸状態で突っ立ってんのよ!まさか……」
拓人は、涼に一歩近づき、なぜか懐にしまっていたカッターナイフの刃先を涼の首筋にあてた。
「……どうして、そんなものを持っているのかな?軽犯罪法違反で捕まるよ」
「あんたが香澄を泣かせたときに、いつでもソレを切り落としてやれるようにしてあげてるのよ。備えあれば憂いなしって言うでしょう」
拓人が涼の、タオル越しにもっこりを指差しながらそう言った。
「さっきまで香澄は、これを欲しくて仕方がなさそうだったけどね」
「あんた……!香澄が妊婦だって忘れてないでしょうね!?」
「ああ、だから挿れることは必死で我慢したんだよ」
「その前から我慢しなさいよ!性欲フル回転させてんじゃないわよ!」
「香澄にだけだよ」
「くっ……」
過去の涼のクズっぷりをよーく知っている拓人は、涼が一途になったことそのものが奇跡だと思っている。
ただ、その相手が香澄であることが、やっぱりどれだけ考えても悩んでも、複雑だった。
「と、とにかくね、私が来たからには」
拓人が何かを言おうとしたその時
「すみませんお待たせしました!」
と、急いで着替えをしてきた香澄が現れた。
その姿に、拓人と涼は目を丸くした。
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