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考えてみたら、拓人はこの業界では有名人だ。
そういう可能性があることを、なぜ少しも考えなかったのか……香澄は自分の考えなしな行動を心から悔いた。
「しかも、あなたからコンタクトを取ったんですって?」
「そ、そこまで……」
「私を誰だと思ってるの……?舐めてもらっちゃ困るわよ……香澄ちゃん?」
(やば、めちゃくちゃ怒ってる……)
拓人が怒った時の、低くてドスが聞いた声が、香澄をびびらせるのに十分だった。
ちなみに、涼は何故か、拓人と香澄のやりとりを黙ったまま見ていた。
「ねえ、何度も、しつこく言うけど、あなた、妊婦よ、に、ん、ぷ! まさかここまできて、そのお腹は脂肪ですとかふざけたこと言わないわよね」
「い、言いませんよ……」
「じゃあどうして? 安定期に入ったからって、妊婦は普通の体じゃないのよ?それを、普通の状態でやっても過労状態になる業務量を何で、よりもよって私からじゃなくて他から引き受けるの?」
「そ、それは……」
香澄は、ちらと涼を見た。
涼は香澄を見つめるだけで、何も言わない。
(言えない……涼先生の前では……)
まさか涼の心と体を繋ぎ止めるためのお金が欲しいだなんて、どうして本人に言えようか。
「なあに?こいつがいると言えないこと?」
「そ、それは……」
(どうやって切り抜けよう……!?)
素直に本当のことを伝えるか、それとも適当にごまかすか。
(ゲームだったらちゃんとコマンドとか選択肢出てくるのに……!)
何故この世界がゲームの世界じゃないのかと、香澄は再び考えてしまった。
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