第1章 SSRって、何?

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「あらーどうしたの?」  涼のスマホから聞こえてきたのは、洋子さんの声だった。  洋子さんと言うのは、香澄の母親の再婚相手の元妻という、香澄にとってはややこしい関係の人ではあるが、なんだかんだあり、今は母親以上に母親のような存在として、香澄を助けてくれるようになった。 「あのですね、洋子さん。香澄の出産後の話なんですが」 「はいはい。楽しみねー」  自分の孫のように、香澄の赤ちゃんの誕生を楽しみにしてくれている洋子だった。何故なら本当の子供の方には、少々期待できそうになかったから。 「それで、僕と香澄、できれば旅行に行きたいと思ってるんですけど」 「あらーいいわねぇ」  その二人の、寝耳に水な会話に拓人と香澄はそれぞれ驚いた。 「ちょっと、涼先生!?」 「ヴァアああああかじゃないの!?出産後にまさか二人きりで旅行!?それこそガス爆発大炎上案件じゃない!!ダメよ!ダメダメ!認めないわ!!」  拓人の全否定に、涼は美しい顔をしかめる。 「だからこそ洋子さんを頼るんじゃないか」 「は?」 「うんうん、いいわよぉ。可愛い赤ちゃんのお世話がもう1回できるのなら、大歓迎よ」 「そうですよね、洋子さんそうおっしゃってましたもんね」 「ええ」  涼と洋子は、いつの間にか意気投合していたのか、それとも話をすでに擦り合わせていたのか、洋子が当たり前のように赤ちゃんの面倒を見るようになってる。 「いやいやいやいや。あり得ないでしょう。洋子さんがとってもいい人なのは私でも知ってるわよ。でもそれとこれとは話が違いすぎるでしょう!?」 「あらあ、どうして?」 「洋子さん。わかってます?そこの歩く公害は、香澄の赤ちゃんを洋子さんに預けて、自分だけいい思いしようとしてるってことですよ!?」 「あらあ、いいじゃない。二人きりの時間もたまには必要よ。……私と夫は、そういう時間が取れないままだったから、結局別れることになっちゃったんじゃないかって思ってるけど……」 「そりゃあ、たまには必要だとしても、こいつが考えてるのはモルディブ!?海外って、産後の香澄と赤ちゃんを引き剥がして、数日……いや、下手したら数ヶ月は香澄を拉致するかもしれない……ああ、考えただけで悍ましい……!」 (え、それは……流石に……)  香澄はすでに体内にいる赤ちゃんと一緒に生きている。  まして生まれたばかりの赤ちゃんはとても可愛過ぎて離れ難いという情報もよく読んだ。  成長もあっという間だと言うから、数日でも離れるのは嫌だと、母性本能で思った。  ところが、洋子の次の言葉がそんな二人の不安を吹っ飛ばした。 「あらあ?私も赤ちゃんも一緒に行くわよ」 「え?」 「もちろん、赤ちゃんがしっかり成長して、安心して乗り物に乗せられるようになってから……よね」  洋子の言葉を聞いた拓人は疑いの眼差しで涼を見ると、涼は明後日の方向を見ていた。
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