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香澄は、そのままスマホ画面に視線を落とすと、すごい形相で親指で液晶を叩き始めた。
その顔は「不倫相手から何がなんでも慰謝料ふんだくってやる」と叫びながら事務所に来た被害者女性の顔に似ている気がした。
「ねえ、香澄?」
「……出ろ……出てくれ……」
会話が噛み合わない。
「ねえ香澄? 出るって、何のこと? そもそも僕たち、今キスをしていたはずだけど……?」
「ごめんなさい」
そのまま、香澄はスマホを両手で包み、祈るようなポーズをしながら早口で言葉を続けた。
「でも今、それどころじゃないんです」
そ れ ど こ ろ じ ゃ な い!?
(まただ……。 また、邪魔された……。たかだか、スマホなんかに僕と香澄の大切な愛の時間が……)
涼は、グルングルン脳内で吹き荒れる嫉妬の嵐を、どうにか無理やり抑え込みながら、理性の仮面を二重、三重に顔に貼り付けてから、香澄に尋ねた。
「香澄? 君は一体……何をしてるんだい?」
涼が様子を見ていると、香澄のスマホの画面には男のアニメらしきものがたくさん表示されている。
その男どもなんかの絵を親指でタップしたかと思えば、また真剣に祈ってる。
それを、香澄は繰り返していたのだった。
「SSRが来ることを祈ってる」
「え、えすえすあーる?」
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