第1章 SSRって、何?

81/81
前へ
/272ページ
次へ
「あんた……正気?こういう言い方を私がするのもどうかと思うし、この発言を香澄に聞かれたら『先輩がそんなこというなんて、見損ないました!』と言われそうだけど、それでも、あえて言わせてもらうわ」  拓人は、先日買ったばかりのお気に入りの指輪をつけた右人差し指で、涼が見せてきた画面を分かりやすく指し示した。 「これは、人が、描いたの。……わかる?人間じゃないの。絵なの。……わかる?人が貢ぎたくなるようにものすっごい可愛く描かれているけれども、それでも……ただの絵なの。わかる?わかってるわよね?あなた、著作権関連の裁判やったでしょう!?そっくりな絵を2人が創ってきて、どっちがパクリだーって騒いだ事件。忘れたとは言わせないわよ」  盗作裁判はクリエイターとしては見逃すわけにはいかなかったので、例え涼の仕事だと分かっていても、拓人は追いかけずにいられなかった。 「あれで散々知的財産だーなんだーって調べたんでしょう!? あれ、あれと同じ!」 「それでも……」 「でも、何よ」 「香澄の目が、キラキラ輝いてて……僕を見る目よりもずっと…………」 「あー………………」  涼は知らないのだ。  本当に好きになった三次元の異性に向ける視線と、課金破産しても惜しくないと考えるほどの推しに注ぐ視線の種類が違うことを。 「やっぱり、会社ごと潰すしか」 「やめなさい。日本中の男女に恨まれて、今度こそ生き霊に殺されるわよ」  それから数時間、拓人は全世界に住む二次元コンテンツを愛する仲間のためにと、必死で「推し」と「恋」の違いを説明したのだが、それを涼が理解したのかは、最後までわからなかった。 →第2章 二次元と結婚したいってどういうこと? に続く 
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1930人が本棚に入れています
本棚に追加