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話を終えたダニラは「ほぅ」と息をつき苦笑する。
「ま、そんなわけよ。今思えば山に入ってたのは多分ルナリなんだろうね。あの娘、ディルクと結婚して村長夫人になるんだってずっと言ってたから綺麗になりたかったんだろうよ。なのにディルクは私を気に入ってた。それであたしが邪魔になって山に入った罪をあたしに押し付けた、と。彼女にとっては一石二鳥ってやつ。あたしたち家族はまんまと嵌められちまったのさ」
残ったエールをひと息に呷りダニラはフン、と鼻を鳴らす。
「ま、居心地のいい村じゃなかったけど追い出されてからも大変だったよ。母親の弟がいる街で暮らしてたんだけどさ、段々母親もあたしのことを疎ましく思うようになったみたいで」
次第に「お前さえいなければ」「本当は山に入ったんだろう」とダニラを責め立てるようになっていったという。
「たまたま母親の話を盗み聞きしてさ、私を娼館に売り飛ばそうとしてるのがわかったのよ。それで慌てて逃げ出したってわけ。でも私はついてるよ。良い人に出会えたからさ」
街の外れで途方に暮れているところを、たまたま遠くの街から買い出しに来ていたここの女主人に拾われたのだという。
「ずいぶんと苦労したんじゃなぁ」
老人の言葉にダニラは「まぁね、今はそこそこ幸せだからいいけど」と笑う。だが次の瞬間、ひどく冷たい声音で「村の連中は許せないけどね」と呟いた。老人はしばらく黙ったまま彼女を見つめていたがやがてぐいっとエールを飲み干し彼女の顔を覗き込む。
「なぁダニラさんよ。村の連中に教えてやりたくはないかい?」
「ん、何を?」
老人はニタリと嗤って言った。
――真実を、じゃよ。
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