3.告発

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「ん、これは何だ?」 「トニア山じゃねぇか?」  ざわざわと村人たちが騒ぐ中、鏡の中にひとりの女が映り込んだ。徐々にその姿が鮮明になっていく。 「あれ、こりゃ子供の頃のルナリさんじゃねぇか?」  村人のひとりがそう言ってルナリの顔を見る。だが彼女は先ほどからこれでもかと大きく目を見開き叫び出しそうな口を両手で覆っていた。再び場面が変わる。今度は男と女が何やら言い争っている場面だ。 「こ、こりゃディルクの旦那と……ダニラだ」  村人たちは悟った。これはあの日の記憶なのだと。そう、誰かが掟を破って山に入り、ダニラたち家族が断罪された日の記憶。 「村長、ちょっと説明しちゃもらえませんかね」  村人たちがディルクとルナリに詰め寄る。その時「私が説明してあげるわ」という女の声が足元から聞こえた。声の主を見て村人たちはぎょっとする。何と喋っていたのは弟子の黒猫。そこで老人が猫の頭を撫でてやると猫はみるみるうちに人の姿に変わった。ダニラだ。 「ああ、これでようやく真実を語ることができる。あの日私はディルクに呼び出され、自分の女になれと言われたの。でも断ったわ。いつも自分が村長の息子だってことを鼻にかけた嫌なやつだったもの。ルナリはそんな私たちの様子をどこかで見ていたんでしょうね。ディルクと結婚して村長夫人になりたかったルナリは私を村から追い出すいい口実を思い付いた。こっそり山で〝美しさの実〟を採ってきたその罪を私に擦り付けようって。だからわざとその種をわかりやすい場所に落としておいた……ね、そうでしょルナリ」  ディルクとルナリは恐怖に目を見開きただじっとダニラを見ている。 「ルナリが何度も山に入っていたかどうかなんて知らないわ。でも少なくともあの種はルナリが採ってきたものよ。そしてディルク」  ダニラがディルクに指を突きつける。 「あんたは私が自分の申し出を断ったことを皆に知られたくなくて、それでルナリの嘘に乗っかった。自分のものにならないなら村から出ていってしまえと思ったから。そうでしょ」  しわぶきひとつするものもない部屋の中、ダニラの声が朗々と響き渡る。ようやく言葉を取り戻したディルクがふるふると首を横に振り「う、嘘だ、そんなの言いがかりだ」と叫んだ。ダニラは少し悲し気な表情を浮かべてため息をつく。 「もういいわ。後のことは村の皆に任せるから。こんな嘘つきが村長とその妻だなんて、トニア山の神はきっとお赦しにならないでしようね。真実を知って尚彼らをそのままにしていたら……村に大きな災厄が訪れるかも、ね」  意味ありげにダニラは微笑むと再び黒猫の姿になり素早く部屋から走り出た。いつの間にか真実の鏡も老人の姿も消えている。残された村人たちの視線はディルクとルナリに向けられた。
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