十二話

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十二話

 ドラゴンの卵にヒビが入った。みんなはドラゴンが生まれて来るのを、いまか今かと待っていた。    バリバリと卵にヒビが入り欠片がポロポロ落ちて、ヒビの隙間から溢れ出す魔力、その異常さを察知したラエルさんは「【鑑定魔法】」を唱えた。  卵の中身を見たのか、ラエルさんの瞳が開かれる。 「「兄貴、ルーチェさん、みんなぁ――! 一旦その卵から離れて、それは卵じゃない擬態した結界だ。今から生まれるのは幼体じゃない、成体のドラゴンだぁ――!」」 「成体のドラゴンだと? ルー、その卵貸せ!」  シエルさんは私から卵を受け取ると、夜空に向けて投げた。夜空に投げ出された卵はバリバリ音を立て、殻が割れていく。  辺りに見えていた星々は消え、漆黒の闇夜が空を覆い尽くした。 「凄い魔力だ!」  シエルさんの呟きと同時に、真っ白なドラゴンが私達が乗る福ちゃんの前に大きな翼を広げ現れた。 『我は聖竜帝国シックザール。第一王太子エクレール・シックザールである』  ドラゴンの話す一言、一言に突風が起こり、福ちゃんと私たちは今にも吹き飛ばされそう。   「【シールド】」  ラエルさんはその突風から、私達を守る魔法の盾を出し、シエルさんは杖を持つと私の前に立った。 「ルー、俺の背中に隠れていろ。ガット、ベルーガを守れ!」   「わかったっス」  ガット君は大きくなり子犬ちゃんを守る。みんなの安全を確認してから、シエルさんとラエルさんはドラゴンに向けて杖を構えた。  今から何か起きる、そう予想した矢先。  白きドラゴンは焦りの声を上げた。 『まて、まて、お主達とは戦わぬ。ただ――礼を言いたいのだ……ワタシの母上の願いを叶えてくれてありがとう。この世で生きる力をいただいきありがとうございます、シエル様、ルーチェ様』  と頭を下げた。  戦う気はないと言ったドラゴンの言葉を信じ、シエルさんとラエルさんは杖をしまい、同時にホッと息を吐く。   「はぁ――よかった。自分達で出した幻想のドラゴンしか知らないから……正直、負けちゃうかと思ったね」   「ああ、本物には勝てる気しないな。安全に、どう逃げきるか考えてたぞ」  笑って話す2人に、白いドラゴンは頭を下げた。 『すみません……何百年ぶりの外で……その、気持ちが舞い上がって、勇んで登場してしまいました……ワタシの事はこれからはクレお呼びください、シエル様、ルーチェ様』  もう一度、頭を下げて体をシュルシュル小さくしていくクレ。 「クレか、いい名前だね。私の事はルーチェ様じゃなくて、ルーチェと呼んで」   「俺はシエルだ。むず痒くなるから様はつけるなよ」 「僕はラエルで、いま僕たちが乗っているフクロウがウルラ、黒猫がガットで子犬がベルーガだよ」 『ルーチェ、シエル、ラエル、ウルラ、ガット、ベルーガ皆様よろしくお願いします』    +      また、同じ様にのんびりと、福ちゃんに乗り飛んでいる。クレが夜空に現れた時、彼は自分の魔力で私達ごと結界を張り、他の者には見えなくしていたと教えてくれた。  よかった――海上を抜けて陸の上を飛んでいたから、下の国で大騒ぎになったかもと思ったけど、一安心。そのドラゴンのクレはというと、今は私の膝の上で子ドラゴンに変化して寝ている。 「クソ、俺の場所がクレに取られた」 「フフ、シエルさんは隣ね」  仕方がないと、私の隣に座った。  クレの話では魔族との戦いの終盤戦の時、皆を守り傷付き、死の間際のワタシに母上が擬態の結界を張った。そして母上は最後の力を使い、竜殿にも結界を張り最後の竜人――我を守ったと。  卵の中で何百年と眠りについていた、ワタシに温かな魔力が流れ込んできた。卵の中で目が覚めて、腹が空いていたワタシは……その温かな魔力を思いっきり喰らったとクレは話した。    必ず、受けた恩は必ず返すと言い切ると、小さくなったクレは私の膝の上で眠り始めた。――そんなクレを見てシエルさんがごちる。   「また、ルーを気にいる仲間が増えた……俺の彼女なのに」 「シエルさんは拗ねないの」  隣に座る、シエルさんの肩にコツンと寄りかかる。 「私がこうやって甘えるのは、シエルさんだけですからね」 「そ、そうだな……ルー、今度は俺が起きてるから寝ていいぞ」  照れた様に返してきたシエルさんに『はい』と返して、目を瞑った。
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