一話

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一話

 たくさんの"ありがとう"を伝えて、私はガリタ食堂のみんなと「また会いましょう!」とさよならした。――そして今、シエルさん、ラエルさん、子犬ちゃん(王子)みんなの故郷、大国ストレーガに向けて移動中。    生まれてはじめてアンサンテ国を離れる。  幼い頃にカロール殿下の婚約者になってからはずっと、王城と公爵家を行き来する毎日だったから。長旅に出るもの初めてで――私は景色を眺めて、これからの旅にワクワクとドキドキしていた。  シエルさんがいうには、何もなくストレーガ国まで辿り着けるとしたら……3日で着くと言っていた。 「ルー、平気か?」 「平気ですよ、シエルさんの故郷たのしみです」 「そうか」  私たちの周りを、シエルさんが魔法でだしたライトの光が明るく照らしている。その中を軽快に飛ぶのは、普段よりも数倍に大きくなったシエルさんの使い魔フクロウの福ちゃんと、ラエルさんの使い魔、黒猫のガット君。    夜の海、ときおり吹く冷たい風が頬を撫でる。その中を軽快に進む使い魔の2匹。――だけど、しばらくしてガット君がフラフラしだす。 「あるじ。ボク、もうダメっス、走れないっス」  モール港街から出発して約一時間はたつだろうか……ガット君は走れないと根をあげた。すかさず、そこに向けてシエルさんは回復魔法を放ち、ガット君の体が光り魔力が回復した。 「あと一時間くらい走ったら休憩にする。それまでは頑張れるよなぁ、ガット?」   「ガット、僕からも回復。あと一時間は頑張ってね」  ラエルさんにやさしく頭を撫でられて、ガット君は嬉しそうに目を瞑った。 「うぉおお――ボク頑張るっス! そして、休暇のとき姉さんのお膝で甘えるっス!」 「なに? お嬢の膝で甘える? たまには譲らんかガット」  ――え、福ちゃんも?  甘えると言いだした2匹に反応したのはシエルさん。 「おい、おい、少しは遠慮しろ。ルーの膝は……というより全部、俺のものだ!」 「嫌っス」 「右に同じ」   「「お前ら!」」  いきなりシエルさんは杖をかまえ、光の球をガット君に向けて放つ、それを交わしてラエルさんは応戦した。 「兄貴、いきなり魔法を放つなんて、あぶないよ!」   「ふん、しっかり反撃してきたくせに、よくいうよ。ハハハッ!」 「あたりまえだよ。それに、当たりでもしたらケガをする!」  シエルさん、ラエルさんは魔法弾を飛ばしはじめ、それに応戦する福ちゃんとガット君。私のそばで眠っていた子犬ちゃんが目を覚まして、コソコソ膝の上に座った。  子犬ちゃんの見た目は、可愛いモフモフな黒い子犬だけど。本当は子犬ではなく――ストレーガ国の第一王子。……そうわかっているのだけど見た目が可愛いから、つい頭を撫でてしまう。撫でられた子犬ちゃんも気持ちいのか目をつぶった。 「ふわぁ……みんな、夜なのに元気だね」  「そうだね……子犬ちゃん」  私がベルーガ王子ではなく子犬ちゃんと呼ぶと、膝の上で目を丸くて私を見上げた。 「ルーチェちゃんはまだ、ボクをそう呼んでくれるんだ」   「だって見た目が可愛い子犬の姿ですから……あ、でも、ベルーガ王子と呼んだ方が良かったですか?」  子犬ちゃんはブンブン首をふり。「いやぁ、ベルーガ王子飛ぶのは今はやめて」と言い。私の膝の上でふんぞりかえる。 「ルーチェ嬢――国に戻り、元の王子の姿に戻るまで、オレの事を"子犬ちゃん"と呼ぶのを許そう」 「ありがとうございます、子犬ちゃん」  その2人のやりとりに、   「はぁ? ベルーガは何を許すんだ?」  ラエルさん、福ちゃん達との魔法合戦が終わったのか、シエルさんが膝の上の子犬ちゃんをうえから覗き込んだ。その赤い瞳は少し怒っている様に感じる。 「うげっ、シエル? いまの話きいていたのかよ……ほんの軽い冗談だよ」   「軽い冗談? どうだかな? ……まったく、ベルーガまで、俺の彼女の膝の上に遠慮なしに座るとはな。そこは俺の場所だ!」  "俺の彼女だ"と、 シエルさんがそう私を呼んだ。嬉しいのと照れが混じる。……でも、シエルさんもその呼び方に慣れていないのか、頬が赤くなっていた。  ――フフ、照れてる。 「せ……あ、シエルさんは私の横に座って、少し肩に寄りかかってもいい?」 「あぁ、いいよ。ルー……その、髪に触れてもいい?」  コクリと頷き、隣に座ったシエルさんの肩に体を預けると。彼の手が伸び髪を優しく撫でてくれた。その時に気が付く、彼の男性らしい長い指と、大きな手……手首のホクロと小さな切り傷。  私は――私の知らないシエルさんを知れて、幸せを感じた。
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