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2年後
金美と夏志は、離婚した。
金美の疼痛閾値がひどく不安定なまま、戻らなかったためだ。
娘の江実とは、なんとか生活できるらしい。
だが、夏志と生活となると……夏志のほうに自信がなかったのだ。いつ、何で傷つけるかわからないのが怖くて、とてもやっていけないと夏志は判断した。
このまま別居を続けるという案も出たが、夏志側が拒否した。単身赴任が長かったから、老後こそはパートナーが欲しかった。
結局、夏志のほうからも離婚の意思を示して、離婚が決定した。
「離婚……か。」
離婚届を見ながら、夏志は自嘲した。
そして、いつか会社を辞めた同僚が言っていたセリフを思い出した。
「頑張ったら報われる。
そういう時代は終わった。
頑張ったら報われるなんて、空しい幻想だったんだ。
……本当だな。
頑張るって、なんだ?」
さいわい、娘や、最近生まれた孫とは比較的自由に会える。
しかし、そのうち物心がついてしゃべれるようになる孫に、おじいちゃんとおばあちゃんがなぜ離婚しているのか訊かれたら、なんと答えたらいいのだろう。
「きらいなわけじゃあないんだ……。」
いまはそんな言葉しか、思い浮かばなかった。
それだけが、はっきりしていた。
了
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