3人が本棚に入れています
本棚に追加
あのとき僕はあいつと離れたくなかった。
ずっと一緒に居たくて、別れを先延ばしにしていたというのに、遂にそれも限界に達しようかとしていた。
「お前と離れないといけないみたい」
心の隅っこからそんな台詞が浮かんだけれど、すぐに消えた。
まだ、離れたくない。まだ温かみを感じていたい。
服の袖で、ぐっと涙を拭った。
でも、当然お前は何も言ってくれなくて、無機物みたいに固まったまんまだった。全く寂しそうな素振りを見せない。むしろ、すぐにでも離れろとでも言いたいようにも見えた。お前の気持ちは最期まで分かんなかったけれど。
そして、そんなことを思っていられるのも束の間で、別れのときがやってきた。
お前に抱きついていた腕を解いて、離れた。身体はまだ微かな温かみを感じていたけれど、それすらもほんの僅かな間で冷めてしまう。
「じゃあ、またな」
心の中で呟いた。どうせ、口に出したところでお前は聞かないだろうからさ。
***
けたたましいチャイムの音と、靴箱に走る生徒たちの駆ける音が交差している。
そんな中、僕は1人、ちょうど門をくぐり抜けたところだった。
あいつと長く居た弊害が出たらしい。
「遅刻ッッ!!」
クラスメートがどっと湧いた。また遅刻かよ、と口々に言う。
「遅刻の理由は何ですか」
先生は教壇の上に仁王立ちで構えて、僕に問った。明らかに呆れ口調だったし、もう僕が何を言うか承知しているような気がする。
「えー、布団から出られませんでした!」
先生の鬼の形相と笑みが混じったなんとも言えない表情を、今でも忘れることはない。
最初のコメントを投稿しよう!