無気力タルト

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それから私は毎週土曜日にそのお絵描き塾へ通うことになった。 「綺麗に綺麗に重ねていくんじゃよ、そうそう」 鉛筆デッサンと木炭デッサンを習った。 先生はいつも、ホホホっといいながら、優しく教えてくれた。姿勢は真っ直ぐにブレないように。慎重にだけれど大胆に鉛筆や木炭を動かした。 集中する時間が心地よかった。 「だいぶ上達してきたね、これなら受験も大丈夫そうだ、どこの大学に行きたいんだい?」 先生は東京芸大を出ていた。私はこのときまでは、森先輩と同じ大学に行ければなっと深くは考えていなかった。 「まだ、考えてないです。東京の大学に行けたらいいと思っています」 「そうか、そうか、頑張ってね、ホホホ、ちょっと休憩にしようか」 先生はいつもお茶を入れてくれた。休憩の時のお茶の時間は一番好きな時間だった。 「いやー、若いっていいね、いるだけでなんか元気もらえるよ」 一緒にお絵描き塾に通っている。お兄さんとよく話した。そんなに深くは話さないけど、お互いに絵の感想を言い合ったりした。 「いいですね~戦闘機ですか?」 「そうなんだよ、点描で描くのにハマっててね」 「そうなんですね」 私はそうなんですねが口癖だった。人と話すことが無かった私は最初、共感ということが全くできなかった。最初から好き勝手に自分の意見ををのべてしまうのだ。 これは治すのに苦労をした。大人になってからも治っているかはわからない。 ただ自分が共感しているように見せるために、とりあえず相手の言っていることをそうですねと一度飲み込む癖ができたのは覚えているかぎり、高校の頃だったように思う。
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