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「ごちそうさまでした!」
私は米粒一つ残さずに皿を空にした。
「だいぶお腹いっぱいになったな」
「そうだね」
「しかし、作りすぎたな、流石に全部は食べきれなかったか」
森先輩の目線の先にはフライパンに半分以上残っている子供チャーハンがあった。
「まぁ、炊飯器の中身全部入れたからな、当たり前か」
先輩はあははと言いながら、余った子供チャーハンをタッパーに小分けして入れていた。
「先輩、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げてお礼を言った。
皿を手分けして片付け終わるといよいよ二人きりになった。お互いに無言で真横に並ぶ。
「私、その、こういう時に先輩に何話して良いか分かりません」
「いつもみたいに何でもいいよ、何でも話して」
「………えっと、いつも何話してたっけ…」
「あはは、そうなるよな、うん」
お互いに無言で顔を見つめ合う。
私は当時、少女漫画を良く読んでいた。こういう時恋人同士はキスをするのだと直感で感じていた。
「先輩……その……」
目を閉じて恐る恐る、先輩に顔を近づける。唇までの距離が遠い、あと少しのところで「もう、無理……」というのを一人で繰り返した。
十回ぐらい繰り返したところで、黙っていた先輩が
「あんまり焦らすと、キスさせてあげないよ?」
というので、十一回目ぐらいでようやく、唇に唇がぶつかった。
ぷにっと柔らかくて、子供チャーハンのケチャップの味がした。
先輩は私の唇を終始無言で受け止めると「今日はもう、帰ろうか」と私の肩をトントンと叩いた。
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