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彼の頭の中には、様々な回路が巡っていた。人混みの中を一反もめんのように避けながら、ものすごい勢いでターゲットに近づいていく。
(直接刺すのも有りだが、最近はマンネリだからな・・・屋根の上から狙撃するのも有りだな・・・)
考えながら、取り敢えず、と言うように彼はすぐさま近くのホテルの壁にしがみつき、出っ張った部位に向かってピョンピョン飛びながら登り始めた。何しろ壁なんぞ登っていたら流石に目立つので、とにかく早く、見つからないうちに登らなければならない。少し標的から目をそらした。
登りきって、改めてターゲットを見る。彼は、クッソ・・・、と言って、刀の隣に携えていた双眼鏡を手にした。
本来居たはずのその場所からは、ターゲットが消えていた。彼が双眼鏡を覗き始めたその時、所々から声が聞こえた。
「財布がない!」「俺は百万もした腕時計だ!」「私はネックレスだわ!」
「ちっ・・・アイツ・・・」
彼はそう言って双眼鏡を覗くと、いかにもな男が、手に溢れんばかりの盗んだものを抱え、決死の表情で走っていた。
彼は思い切って屋根から屋根に飛び移ったが、それに多少集中したせいで、男の姿をまた見失ってしまった。
そして、その姿が見えることはもうなかった・・・
ピロン・・・
携帯電話が鳴った。どうやらメールのようだ。
「Akira:この男、追って。(画像添付)」
その画像には、彼女にとって知らない男の写真が貼られていた。ただ、どういった連絡かは、大体わかった。
「顔検索で・・・うーん」
彼女はその場にしゃがみこんだ。下唇をかみながら、顎に手を当てた。
「同業にも入れとくか・・・」
またメールが鳴った。それはつい数秒前に送った同業へのメールの返信だった。それには地図が添付されていた。この街の写真だ。そこの西あたり、名称で言う「桃色通り」の小道に赤い点滅があった。
「よし・・・」
彼女は笑顔で立ち上がった。
「未練タラタラな元カノの根性、見せちゃいますか!」
彼女は、スキップをしながらそこへ向かったのだった・・・
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