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彼はその場にしゃがみこんだ。彼女の頭だけになってしまった亡骸をしばらく見て、愛おしそうに抱きしめた。
そのまましばらく眺めていたが、次第に目の前が水滴で満たされ始め、ついに何も見えなくなった。世界が万華鏡越しのようにぼやけて見える。彼は子供の方を助けようと窓の方を見た。しかし、涙のせいでよく見えず、ようやく見えた頃には、もう、誰もいなくなっていた。
その部屋には、今にも嘔吐してしまいそうな生臭い臭いと、彼の中に渦巻く絶望の感情だけが、漂っていた。
誰もいない、暗い、暗い、大雨の降った夜だった。
彼はすぐさま警察に連絡し、その日のうちにテレビジョンでのニュースにまで伝わり、全国各地に報道され、情報提供を呼びかけた。
その知らせに、未だ絶望し、ひたすらに情報を待つ彼がいた。
その知らせに、どこか親近感を抱きながらも、強気に振る舞う女児がいた。
その知らせに、踊りながら涙にくれる女児と、その隣で、何も思わず、ただ眠たそうに欠伸をする男児がいた。
その知らせに、元々交際関係であった彼の身を案ずる女性がいた。
彼は、妻は不可能でも、子供二人の無事を願った。
それから五年。彼はそのままその職に就き続け、人間関係は更にこじれ、家族をなくしたことからの生きがいのなさに紛糾する日々が続いた。そんな彼に、一通のメールと一枚の写真が届いた。
それは紛いもなく、彼の娘の、生首の写真であることが、彼には分かった。
その瞬間、「絶望」は「憤慨」へ変わり、その念が、彼の脳内に「復讐」という言葉を生み出した。
彼は叫んだ。
家族の誘拐、殺害、全てに関わった人物を全員殺してやる。
ここから彼の「普通の生活」が幕を引いてしまうことになるのだった・・・
『コメンテーターの田中さん。今回の「tooth pods」いかがでしょうか。』
『はい。今回は歯の表面に電子フィルムを貼って会話する、という仕組みで、約十年後にも日本で販売されることになっています。携帯電話等を取りに行く手間が省けるということで、とても・・・』
『ここで速報です。〇〇県✕✕市在住の神都さんの自宅で、母子三名が殺害される事件が起きました・・・』
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