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自負
「物凄く酔っぱらっちまってて!!」
転がり込んで来た、ジョンの言葉に、ビートンもマクレガーも、固まった。
酔っぱらってる?誰が?
「リジーは、ベッドメーキングしているし、俺じゃあ、まずいし、ビートンさん、来てくださいよっ!」
ビートン、行ってやれよと、マクレガーが送り出してくれるが、ビートンの中では、今だ、理解不能というべきか、ジョン曰くの、酔っぱらっている、というのが、レジーナなのか、と、かなり混乱していた。
しかし、何故?
思いつつも、足は、2階へ向かっていた。それも、駆け足で。
ジョンに続いたビートンは、目を疑った。
食堂のテーブルに、ディナーの後で飲むはずだった、ワインボトルが数本転がっていた。
テーブルクロスには、所々、赤いワインの染みがある。
空のワイングラスを手にしたままのレジーナが、椅子の背に持たれかかり、ふんぞり返るように、腰かけている。
目は、虚ろに宙を見て、意味のない、微笑みを浮かべていた。
「レジーナお嬢様!」
ビートンは、おもわず声高に呼んでいた。
ゆるりと、こちらを見るレジーナは、完全に、酔っぱらっている。
「あら、ビートン」
などと、ワイングラスを、高々と上げて、ふふふと、笑う所を見ると、こちらのことは、まだ、認識できるようだと、ビートンは、ほっとしつつも、その淑女らしからぬ有り様に、言葉がない。
いや、淑女、というよりも、レジーナらしからぬ、が、正しいだろう。
ひとまず、部屋へ戻るよう、もう、休むように、ビートンは、声をかけた。
何事だと、説教したいのは、山々だったが、この状態で、まともな会話ができるはずもなく、そして、明日がある。
諸々から、荒れに荒れた、ミドルトン卿が、現れレジーナを連れて帰ることだろう。
果たして、ディブとレジーナの関係が、切れる、か、どうかはわからない。
互いの面子から、レジーナの結婚が早まることも、十二分にあり得る。下手すれば、ビートンが、悪者になり、この屋敷を解雇されるかもしれない。
それでも、ビートンは、良いと思っていた。
できる限りの事をやったのだ。少なくとも、レジーナを守った自負はある。
卿が、ビートンが仕掛けた事の、意味がわからない、はたまた、自分の面子を優先する人物であるのなら、それは、それで、仕方ないだろう。
そこは、レジーナも、わかっている。だから、自棄、いや、これからの気鬱な事情を受け入れようと、荒れて、このざまなのだ……。
仕方ない。
それしか、ビートンにも、レジーナにも、なかった。しかし、二人とも、その、制限の中で、やれることをやったはず。
少なくとも、ビートンは、レジーナへ、自立の道を示したつもりだった。
後悔なきよう、メイドになるよう助言し、そして、レジーナ自ら、ディブと対決できる場面を作ったつもりだったが、如何せん、ミドルトン卿の到着が、早すぎた。
これから、悪を暴いて、ディブ達に恥をかかせる、つもりだったのに。
まあ、それこそ、仕方ない。
あの後、レジーナは、彼女なりに、兄へ抗議という意思表示をきちんと見せた。
それだけでも、前進したのだ。
ビートンは、少し、独りよがりだったか、と、自分の行いを思いつつも、とにかく、前に居座る酔っぱらいを、部屋へ連れていかねばと、レジーナの側へ行くと、空のグラスを、そっと、抜き取るように取り上げて、テーブルの上へ置いた。
それにしても、いったい、いつの間に、これだけ飲んだのだと、ワインの空きビンを眺めつつ、ビートンは、レジーナへ、さあ、お嬢様と、できるだけ、ご機嫌を損ねないよう声をかけた。
「……荷造り、しないと」
レジーナは、ビートンなどはなからいなかったかのように、呟くと、椅子から立ち上がる。
が、当然、よろけて、転びそうになった。
「危ない!」
おもわず、支えるビートンの、その胸へ、レジーナは飛び込んだ。
「ビートン、あなたが、あなたが、もっと、親身になってくれていたら!」
言うと、レジーナは、ビートンへしがみつく。
アルコールの匂いが、蒸せかえるように漂う中、ビートンは、レジーナを執事らしからぬ、抱きしめ方をしていた。
よろめいて、胸元へ転がり込んで来た、それだけなのだ。本当は、レジーナの肩に手を添えるか、はたまた、ダンスでリードするかのように、腰に手を回して、その体が、倒れないように、するべきところを……。
「あなただって!」
ビートンは、もっと、自然に頼ればよろしい、執事だろうが、なんだろうが、私に、頼ればよろしかったのに!と、感情の乱れ丸出しで、レジーナをしっかり、抱きしめていた。
事情が、わからないジョンは、レジーナの酔っぱらい具合を考慮しても、繰り広げられていることは、何か違うと、オロオロするばかりだった。
そこへ、木靴の音が鳴り響く。
「レジーナーお嬢様!ベッドメイキングが、できました!」
リジーの声が、響き渡った。
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