対決

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対決

翌朝、どこか、沈痛な面持ちの使用人達は、調理場控え室で、オーツ麦を水で煮込んだポリッジを、すすっていた。 「ジョン、おかわりあるぞ?」 マクレガーが、声をかけるが、ジョンは、顔をしかめたまま、 「あぁー、夕べの、ローストビーフに、マッシュポテト、最高だったなぁー!」 と、誰に言うわけでもなし、天井を見上げ呟いていた。 「なに言ってんだ!朝食と言えば、オートミールって、相場が決まってんだろう」 「でも、マクレガーさん、水膨れした粥じゃー、味気ないっすよ!」 「塩をかけるといいのよ」 リジーが、口出ししてくる。 だとよ、と、言いつつ、マクレガーは、ビートンを見た。 昨日の乱れ様は、どこへ。完全に執事の顔に戻っていた。 「なあ、ビートンよ」 マクレガーが、言いにくそうに、それでも、どこか興味津々と、声をかける。 「……さあ、さっさと、朝食を済ませて!」 午前中の日課に取りかかれと、ビートンは、皆を急かした。 そして、それに答えるかのように、玄関ドアが、荒々しく、叩かれた。 「来られましたね」 ビートンは、静かに立ち上がり、玄関へ向かった。 「マクレガーさん!」 「ああ、始まるぞ!」 「ねえ、何が、始まるの?お客様?お茶の用意は、いいの?」 リジーだけは、相変わらずの返答だった。 訪ねて来たのは、ミドルトン卿。そして、手に、あのゴシップ紙を持って、なんだこれは!と、叫び散らすに違いない。 昨日の時点では、レジーナの中に、自己が目覚めていたが、あれは、酔っぱらっていた上でのこと。 果たして、今朝も、あの決意満々の態度は、残っているのだろうか。 マクレガーも、ジョンも、気を揉んでいた。 屋敷が、ミドルトン卿に取り入ったディブに乗っ取られるのか、今まで通り、水でかさ増しした、オートミールの朝食と、後は、くず野菜のスープとパン、という食事で、乗り気って行くのかが、決まるのだ。 皆は、当然、後者を望んでいる。身銭は、今まで切ってきた。そのうち、上等な顧客が付くと信じて。だから、苦行が続こうと今さら、どうこう言うつもりはない。しかし、仮に、ディブが居座ったなら……。すぐに、ここは、ごろつき達の溜まり場になるだろう。あの、妙ちくりんに仕組まれた、パーティーが、それを証明していた。 マクレガーとジョンが、沸き上がる、一抹の不安を押さえつけていると、案の定、玄関ホールから、ミドルトン卿の上擦った声が流れて来た。 ビートン、ビートン、と、かなりの剣幕で、それを、ビートンは、執事らしく、軽くいなしている。 マクレガーも、ジョンも、裏方の人間である以上、どうしようもない。ここ、で、じっと耐えるしかないのだが、ただ、一人、 「お客様だわ。客間の埃を取り払わないと!」 焦りながら、壁に吊るしてある羽箒をひったくり、リジーが、駆け出して行った。 「マクレガーさん!」 「ジョン、リジーは、ビートンより前には出ない。奥の間の掃除に行っただけだ、何も起こりゃしないさ」 とは言うものの、気になる二人は、つい、控え室のドアから、首を付き出して、玄関ホールの様子を伺うのだった。 「ミドルトン卿、あまり、興奮なさらずに」 ビートンの、最後通告とばかりの、卿への押さえ込みが始まっている。 後は、存じ上げません、の、一点張りで、ビートンも、逃げ通す。 さて。 マクレガーと、ジョンは、ハラハラしながらも、耳をそば立てていた。 すると、 「全く、騒がしいこと!」 レジーナの声がした。 よし!と、マクレガーと、ジョンは、お出ましになったと、ばかりに、ニタリと笑った。 「レジーナ!これは!」 「そう、まったく、兄妹(きょうだい)揃って、大恥をかくところでしたわ」 レジーナは、落ち着き払って、卿へ言い、そして、ビートンへ、部屋から、鞄を運んで来るように、言いつける。 「その間に、私が、ディブの不誠実な行動を、兄に説明しておきます」 はい、それは、と、ビートンも、レジーナへ返事をしつつ、鞄とは、どうゆうことかと、問いただした。 「たってきの、荷造りは終えてます。兄と共に、本宅へ戻ります」 レジーナは、ロンドンを去ると言った。 「いや、おい!」 「マクレガーさん!じゃー、この屋敷、どうなるんすかっ?!」 控え室では、レジーナの言葉に、マクレガーもジョンも、肩透かしどころかの衝撃を受けている。 やっぱり、お嬢さん育ちには、切盛りしようだの、自立しようなど、無理な話だったのか。 二人は、肩を落とし、控え室へ入ると、黙って、片付けをし始めた。 そして、その思いは、ビートンも、同様で、レジーナの言いつけを聞きながらも、呆然と、立ち尽くしている。 「ビートン、部屋から鞄を下ろして来てちょうだい」 レジーナの催促に、ビートンは、はっとしつつも、どこか、やるせない表情を浮かべ、ブルーの瞳は、どうしようもない程、揺れに揺れていた。
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