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来客の出迎え
玄関ドアから、叩金の音が鳴り響く。
玄関階段を、駆けあがって、ウォールナットのドアに取り付けついる金具で、力任せに、叩いている。そんな情景が、レジーナの目に浮かんだ。
急ぎの電報配達人が行うような、けたたましいノックの音に、2階から、ビートンが顔を覗かせ、リジーが、階段を駆け下りて来た。
ジョンまでが、奥から出て来て、
「リジー、その、木靴を脱げ。コツコツ音が響きすぎる。レジーナ夫人、俺が、男性家事使用人に、なります。夫人は、一旦、控え室へ下がってください」
と、レジーナを下がらせようとした。
2階のビートンも、頷いている。
きっと、ノックの音が、紳士らしからぬ調子だから、なのだろう。
もしから、本日の催しは、急きょ中止と、本当に、電報が入ったのかもしれない。
ともかく、来客らしからぬ、様子に、レジーナがドアを開けるべきではないと、屋敷の使用人達は判断したようだ。
「レジーナ夫人、さあ」
脱いだ木靴を、手に持つリジーに、促され、レジーナは、奥へ下がった。
戻ってみると、テーブルには、マクレガーが、作った料理の数々が並べられていた。
リクエストの、フィッシュ&チップス大盛、は、ポテトが、山盛りで誤魔化され、マッシュポテトのカナッペも並んでいた。
そして、ボールに、山盛りのマッシュポテトに、鍋に入った、ライスプディングもある。
どうみても、貴族の晩餐とは、思えない、庶民の味が揃っていた。
「まあ、グダグダ言いやがったら、この、マッシュポテトを、添えてやってください」
マクレガーが、レジーナへ、忠告するかの口ぶりで、メニューの説明を行った。
「メインのローストビーフは、オーブンの中です。奴ら、いや、お客様には、ソース無しで、そのままで。付け合わせのヨークシャープディングに、ローストビーフを添える感じで出して下さい。まあ、そこは、ビートンの仕事ですけどね、くれぐれも、それは、違うなどと、口出しは、なさらないように。肉、の、前に腹ごしらえさせておくのが、庶民風なんですよ」
おっと、酒の用意を……、と、呟きながら、マクレガーは、厨房へ戻った。
「ねぇ、リジー?さっきの説明って、まるで、庶民の夕食じゃない?」
「はい、私たちは、肉なんて、とんでもない!特別な日に、ヨークシャープディングで、お腹いっぱいにして、それから、ソーセージを、1、2本食べるのが、やっとなんです。プディングは、小麦と牛乳を、オーブンで焼いた物ですから、肉よりも、かさましできます!」
リジーは、舌なめずりしそうな勢いで、嬉しそうに、語った。
随分、レジーナ達の食事と異なる、メニューと食べ方に、面食らいつつも、何故、使用人達は、小さめではあるが、貴族のパーティーに、庶民、それも労働者階級の、しきたりらしき物を取り入れようとするのか、理解できなかった。
そして、フットマン、として、ドアを開け、取り次ぎ役を買って出た、ジョンの戻りが遅い事に気が付いた。
「リジー、ジョンは、何をしているのかしら?」
通常の屋敷には、フットマンと呼ばれる、男性家事使用人が存在する。玄関をノックされれば、ドアを開け、執事に取り次ぐべき人間か、判断し、掃除係のハウスメイドが、家具を動かす時には、その役目を買うと、文字通り、小回りのきく使用人なのだが、収入源の乏しいレジーナの屋敷には、その役目は置いていない。
すべて、執事のビートンが、こなしていた。
もしかしたら……居るべきものが居ないのも、ここが不人気な理由なのかもしれない、と、レジーナは感じつつも、いや、借り主がついて、パーティーが開かれるではないか、と、浮かんできた疑問を打ち消した。
それにしても、ジョンは、ドアを開けて、身元を確かめるだけのことに、一体、どれだけの時間を費やしているのだろう。
「……もしかして!ジョンったら!」
リジーが、顔を歪めた。
「もう!皿洗いのくせに!!!」
その怒り具合で、レジーナも、ピンと来る。
「リジー、様子を、伺ってみましょう」
「はい!レジーナ夫人!」
二人は、控え室のドアを控えめに開け、顔をつきだした。
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