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蒼暁は鍔迫り合いで一気にカタをつけようと仕掛けた。
ピリッと蒼暁の身体に電気が走る。
このまま刀を通して感電させるつもりなのだろう。しかし、ここで白雪は手を離さなかった。
「!?」
蒼暁は確かに白雪に電気を流したはずだ。
雪神は特に感電しやすい体質のはずなのに何故だと目を見開く。
それは何故か。
「護謨の木から作った手袋と靴をつけているからですよ。」
ドッと蒼暁の背中に熱い痛みが走る。
鍔迫り合いが続く中、後ろを見る事は出来ないが相手は誰かなんて直ぐにわかった。
己の元部下である裏切り者。
その裏切り者と言われる彼女は元上司の背中に突き刺した刀を上へと斬りあげた。
「っ!!!」
声にならない悲鳴を上げ、口を開き刀を落としてしまったと同時だった。
白雪が蒼暁の喉を刀で斬る。
プシュ・・・と、小さな音が聞こえた気がする。
隻眼となった目で一回瞬きをすると目の前にいた白雪の姿が真っ赤に染まり見えなくなった。
声が出せず呼吸すら出来ないが不思議と息苦しさはない。寧ろ全身の痛みは和らいでいた。
意識はあるはずなのにまるで夢の中にいる様な感覚だった。
「蒼暁様ァ!!」
遠くから己の部下の声が聞こえる。
それと同時に敵味方の神力同士がぶつかる音、刀の交わる金属音。
「・・・。」
薄れゆく意識の中で温かい何かが流れる感覚が妙に心地が良い。
蒼暁はゆっくりと目を瞑る。
「・・・・・・。」
苦痛を和らげる【通酔華】の花粉を蒼暁に嗅がせたのは風美本人。少なからず風美にとっては悪い上司ではなかった。
厳しくはあったが性別は関係なく接してくれたうちの一人だったから。
北から捨てられた風美。それとも北を裏切った風。北に捨てられた彼女がここにいて自分達を裏切った事を知った時、蒼暁はどう思っただろうか。失望したのだろうか。
裏切り者としての風美は蒼暁に弔いとして通酔華を贈った。
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