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「……僕たち、別れよう」  その言葉は、案外すんなりと口から出てきたから自分でも驚いた。聖二は慌てるように身体を引き離し、倖弥の顔を覗き込んでくる。 「おまえ、何言ってるんだ」 「ずっと考えてた。どうしたらいいんだろうって。答えが見つからなくて、何が正しいのか、わからなくなってた。でも、今日やっとわかった。僕たちは別れた方がいい」 「桃香のことは気にするな。籍を入れて父親になることが条件で、オレは自由なんだよ」 「それでも、彼女に嘘をついて裏切り続けていることには変わりない。僕がダメになるんだ。このままだと歌うことさえできなくなる……」  もう耐えられない状態まできていた。  腕に抱いた赤ん坊の温もりと純粋に笑う彼女の笑顔が、心に沁みて痛かった。あの時、自分がどれだけ醜く酷い生き物なのかを思い知らされたのだ。 「……わかった」  いつもなら言葉巧みに言いくるめようとする聖二だが、この時ばかりは倖弥の言葉を受け入れた。  倖弥が歌えなくなったら、レイル・ノワールを続けられなくなる。聖二は恋人ではなく、バンドを選んだ。だから、それ以上何も言わなかった。  この関係が終われば、きっと楽になれる――倖弥はそう思っていた。  だけど、いざ別れを受け入れられたら、身体中から寂しさと孤独と苦しさに襲われ、涙が溢れて止まらなくなった。  本当は彼の傍にいたいのに。離れたくないのに。  泣き崩れる倖弥を聖二は、黙ったままずっと抱きしめていた。
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