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「あの、聖二さん……」  スタジオでみんなが休憩中、マネージャーの金井が申し訳なさそうに聖二に声をかけた。 「何かあった?」  休憩中なのだから話しかけても問題ないはずなのに、なぜか金井は言い難そうに口ごもる。その態度が聖二の機嫌を損ねたのだろう。 「はっきり言ってくれないかな」  苛立ちが口調に出ていた。金井は、ちらっと倖弥を見た後、ためらいがちに言葉にする。 「えっと、奥さまが……来てまして」 「は?」 「桃香さんが、お子様を連れて会いに来られました」  その名前を聞いた途端、倖弥の胸に締め付けられるほどの痛みが走った。会うことのないはずの彼女が、この近くにいる。 「あいつ、来るなって言ったのに。どこにいる」 「ロビーで待ってます」  不服そうな顔をした聖二は、すぐに金井と一緒にその場を後にした。  倖弥は衝撃的な出来事に、動揺を隠すことができずにいた。落ち着こうと思っても身体が震え出す。  そんな倖弥の様子に気づかなかったのか、トシは軽い調子で言う。 「聖二の赤ちゃん見たい。オレたちも行こうよ」  俊平が横からトシに蹴りを入れた。 「空気読め!」 「……あ、ごめん。ユキちゃん」  一気に落ち込むトシに、倖弥は申し訳ない気持ちになった。  バンドのメンバーである聖二の子どもを見たいのはあたりまえのこと。それができないのは倖弥を気遣っているから。聖二が結婚報告をした時と全く同じだった。またしてもメンバーに迷惑をかけている。倖弥さえ我慢すれば、全てが丸く納まるのだ。 「会いに行こう」  倖弥の決死の言葉に、トシと俊平は驚愕する。 「だって、ユキちゃん……」 「本気なのか?」 「僕たちが聖二の子どもに会わないのは不自然だよ。僕は大丈夫だから」  しばらくの間、トシと俊平は迷っていたが、倖弥の説得により渋々承諾する。
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