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 朝、スタジオに行くと、倖弥の顔を見るなり、バンドのメンバーが気まずい雰囲気を醸し出した。 「……何か、あったの?」 「ユキちゃん、聖二がおかしくなったよ。結婚するって言うんだよ。束縛されるのがあんなに嫌いな聖二が!」  真っ先に答えたのは、ギターを担当しているトシだった。慌てるように倖弥の元に駆け寄ってくる。  内容を聞いて、メンバーの様子がおかしいことに納得がいった。小さくため息を吐いて、倖弥は答える。 「僕も聞いた……本当みたいだよ」 「ユキちゃん……」  倖弥の言葉に何か言いたげな顔をしたまま、トシは口を噤んだ。  マネージャーを始め、メンバーには、自分がゲイだということを告げていた。そして、聖二との関係も知られている。  だからなのだろう。メンバーが深刻そうな顔をしているのは。本来なら聖二の結婚は祝い事で喜ぶべきところなのに、倖弥のことを心配しているのだ。 「始めるぞ」  そこにやってきたのは、まさに今、話題に上っている聖二だった。メンバーの心境などお構いなしで、準備を始める。 「ひどいよね、オレたちだけじゃなく、ユキちゃんにも相談しないなんてさ」    納得がいかないのか、トシは倖弥の隣でこっそりつぶやく。  ふいに、背中をぽんと叩かれた。ドラムの俊平(しゅんぺい)だった。  彼は普段から口数が少なく、メンバーのやり取り黙って見ていることが多い。だがその行為は、倖弥を励ましているように思えた。 「トシは、くだらないことで騒ぎ過ぎだ。ユキを見習え」 「……そう、だよね」  俊平の言葉に、トシは申し訳なさそうにしゅんとする。倖弥は二人に気遣われていた。 「おまえら、早くしろ! ツアー終わって気が緩んでるんじゃないのか」  スタジオ内に聖二の怒鳴り声が響き渡った。ちょうどスタジオに入ってきたマネージャーの金井が、思わずドアを閉めて戻ってしまうくらいだ。聖二の機嫌が悪いと、些細なことで小言を言われる。  今、彼の機嫌が悪い原因は倖弥だ。聖二が結婚を報告したことにより、メンバーは倖弥を気遣うようになった。よそよそしく腫れ物に触るような態度で、雰囲気も当然悪くなってしまう。それが、聖二を苛立たせた。
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