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「子どもができた」
隣で横になっている恋人が、そう呟いた。ベッドの上で、うつらうつら眠りに落ちそうだったが一気に目が覚める内容だ。自分は男で相手も男。二人の間に子どもができるはずもなく。だったら誰の子どもなのか。
新堂倖弥は、身体を反転させ、彼と視線を交差させた。恋人はこちらをまっすぐと見据えながら、悪びれた様子を見せずにあっさり言う。
「桃香だよ。まさかできるとは思わなかった」
恋人の鳴海聖二は、絶大な人気を誇るバンドL'AILE NOIREのメンバーだ。ベースを担当し、バンドのリーダーとして作詞、作曲はもちろん、全ての楽曲のプロデュースを手掛けている。倖弥もそのバンドの一員でボーカルを務めていた。
聖二とは学生の頃に知り合い、バンドのメンバー、そして恋人としてずっと付き合ってきた。
長身でスタイルのいい彼は、目鼻立ちのはっきりとした美形の持ち主。女性からモテるため、倖弥以外にも恋人は何人もいた。
倖弥はゲイだったが、聖二は違う。彼が男を相手するのは倖弥だけだ。だから、他に女性の恋人がいても強く言えずにいた。
「桃香……?」
女性の名前を言われてもピンとこなかった。
聖二はいろんな女性と関係があるため、どこの誰でどんな人となんてことは、いちいち把握していない。それに、自分以外と関係があるのは仕方がないと割り切っていたとしても、彼が愛する女性のことを考えたくもなかった。
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