たとえ君が冷たくとも

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今は亡き科学者、轟坂(とどろきざか)隆介は今や世界中に名が知られた有名人である。彼がそのような存在に至るまでには、もちろんストーリーがあるものだ。  生前、彼には生涯愛していた女性がいた。彼女の名前は笠間夕依(ゆい)。もともとは一般企業に勤める一社員だったが、かの科学者が亡き今でも息をし続けている、言わば『不老不死』の存在である──     ◇◇◇  彼らの馴れ初めは、二人が高校生の頃に(さかのぼ)る。友人が開いたホームパーティーに誘われた隆介は、渋々友人の家へと赴いた。独りで飲んでいた隆介だったが、その会場内で女性がハンカチを落とすところを見かけた。彼は親切心から、そのハンカチを女性に届けた。この時の女性こそ、夕依であった。 「あの…すみません」 「はい?…何か?」 「えっと、これ。さっきハンカチ落ちたのが見えたので届けようかと思って」 「あ、すみません、ありがとうございます!あなたは…優しい人なんですね」  彼らはそれからというもの、隆介の友人が仲介したこともあり、友好的な関係を築くようになった。そうして隆介は夕依に出会えたことを『運命だ』と感じ、やがて交際が始まった。夕依は敬語を外した途端、少々冷たい態度を取るようになったが、隆介はそんな彼女もいいと感じた。夕依はそんな彼の姿を見て呆れる。その様子は(はた)から見れば、とても微笑ましいものであった。  交際が始まった翌年。隆介が科学者としての才能を認められ始めたのはこの頃であった。彼のところには全国から様々な研究の補助員としてのオファーが来た。その度に夕依と離れ離れになることを寂しがり、彼女に「シャキッとしなさい!」と怒られて仕事へ行く。そのような日々が続いた。 「また仕事?」 「ああ、今度は九州地方でね。呼び出されてしまったから行ってくるよ……帰りはもしかしたら一ヶ月後とかになっちゃうかもだけど──安心してくれ。ちゃんと帰ってくるよ」 「そんなの、言われなくても分かってるし~」 「はは、そうだな。じゃ、行ってきます!」 「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
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