たとえ君が冷たくとも

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    ***  しかし、そんな微笑ましい日常は長く続かなかった。隆介が出張中、夕依が交通事故に遭い亡くなってしまったのだ。連絡を受けた隆介はすぐに仕事を中断し、夕依のもとへ急いだ。  彼女の姿を見た隆介は泣き崩れた。彼は信じたくなかった。ずっと愛していた女性を、非情にも唐突な事故で亡くしたのだ、当然である。 「実は夕依さん、病院に運ばれた時はまだ息がありまして……隆介さんには『出会えて嬉しかった』と言っていました」  医師からその言葉を聞いた隆介は、彼女という存在をいつまでも大切にする、と心に誓った。     ***  数日後、隆介は夕依のことが心に残りつつも、仕事に没頭していた。そんな彼のもとに、ある計画の話がやってくる。  それは『機械生命体採用計画』という名前がつけられたプロジェクトであった。いわゆる『アンドロイド』を研究員の補佐としての採用を目指して製作する計画である。この計画で機械生命体を採用することによって、人件費の大幅な削減を狙っているのだそうだ。隆介はこの計画に喜んで参加した。  しかし、隆介の持つ技術力をもってしても、アンドロイドを作ることは容易(たやす)いことではなかった。落ち着いて考えれば当然だ。研究員の補助役として採用するアンドロイドなのだから、研究においての技術や知識、秩序を知る存在を作らなければならないのだ。難しいに決まっている。隆介は、舐めてかかりすぎたことを反省した。  計画始動からしばらく経ち、隆介とともに計画を実行していた者たちの中から、脱落者が出始めた。機械に関する技術や知識の限界を全て詰め込んだが上手くいかなかった者、他にすべきことができて諦めた者など、その原因は様々であった。  しかし、隆介は決して諦めなかった。どれだけ限界を感じようと、また最初から基礎を見直し、他にもすべきことができても、両立を心がけ計画を続けた。  そうして時間は無情にも過ぎていき、彼の身体と心は自然と(すた)れていった。
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